第52話

それが一人、二人と老若男女問わずに増えていき、毎日のように立体交差線道路のすぐ側で嘆き悲しまれては、いくら感覚を抑え込んでいても、それ以上の術を知らない主婦にとっては騒音トラブル以外の何物でもなかったのだろう。


 しかも、今、立体交差線道路から聞こえてくるのは、嘆き悲しむどころか、有り余る鬱憤うっぷんを撒き散らすかのような若い男達の怒鳴り声とバイク音、らしい――。


「まあまあ、落ち着けよ奥さん。もうちょっとだけ待ってくれ」


 『心霊六法全書』を軽く掲げながら、俊介は言った。


「話はよ~く分かったし、捕まえる罠も仕掛けといた。ただ、あいつらもなかなか停まろうとしないから、上手く捕まってくれる保証はねえぞ?」

「ちょっ……あのね! 可哀想とは思うけど、こうも昼と夜と騒がれたら、私の神経がまいっちゃうわよ! 主人にも変な目で見られるし、離婚になったらどうしてくれんの!」

「生きてる人間の弁護はしてねえし、案件後のアフターケアなんかも範疇はんちゅう外だから、そん時は別の弁護士を雇え」


 じゃあ、始めるからよと、俊介は主婦の家の敷地からするりと抜け出し、すたすたと立体交差線道路の入り口に入った。


 「魔のオバケロード」を渡っていく勇気が出ないのだろう。まだ日も高いというのに、車一台も通りかかる気配がしない。まあ、そのおかげで俊介は仕事がやりやすい訳だが。


 時折、立体の形にふくれた向こう側からの風の音が微かにこだましている。それを聞いて、「うん、いるな」と、俊介は確信した。

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