第50話

三十分後。


 書斎の机でうたた寝をしていた俊介だったが、ずんずんと大股で入ってきた麻衣の姿に、完全に目が覚めた。


「おい、それは新手のコスプレか……?」

「知りませんよっ! タキばあちゃんがこれしかないからって……。私まだそんなつもりないのにっ!」

「安心しろ。どんなに取り繕っても、馬子にも衣装だなんて言えねえくらい似合ってないから、白無垢なんて」

「うぅ~~~!!」


 そう、麻衣が着ているのは純和風花嫁衣装の代表格たる、白無垢の着物。


 何でも、この洋館に嫁に来た時、タキばあが身に着けていたものらしいが、彼女の死後も洋館のどこかに保管されていたようで、それを半ば強引に着せられたのだ。


 本格的な白無垢が重苦しいわ、動きにくいわで、麻衣の気分はますます憂鬱ゆううつになる。


 だが、それに反して、俊介は少しずつ愉快になっていったのか、とうとう口の端を持ち上げて笑い出した。まるで新しいおもちゃを買ってもらった、小さな子供のように。


 タキばあちゃんの嘘つき! これのどこが照れてんのよ! 悪意と嫌味以外、何も感じられないんだけど!


 麻衣がそう思ったのと、書斎の机の上にあった俊介のスマホが鳴ったのは同時だった。


 俊介は素早くスマホを持ち上げ、すかさず通話ボタンをスライドさせた。


「はい、こちら鳴海心霊法律相談事務所。……ああ、あそこにいる奴らね。営業時間外だからな、三割増しの報酬でよろしく」


 そして、電話を切ると同時に、麻衣を見てニヤリと笑った。


「喜べ、ちぐはぐ童顔小娘。弁護士見習いとして仕事ができるかもだぞ」


 ……全くもって、嫌な予感しかしなかった。

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