第48話

「じょ、じょうかれいすい……?」

「ああ。心霊弁護士組合通販で一、二を争う大人気のミネラルウォーターだ。お悩み相談霊に振る舞う茶に使うもよし、浮遊霊同士のチーム対抗野球大会での勝利の際、ビール代わりに掛け合うもよし。当然、洗濯や風呂に使うもよしだ。一本、十万円だから、一滴もムダ遣いするなよ」

「……」

「そうそう、洗濯にはこれ使え。そのまま風呂に使っても問題ねえぞ」


 俊介が指差す方を見てみれば、そこにはかつてあの老婆が使っていたものだろう。実に昭和レトロな金だらいと洗濯板……。麻衣は、もう何も言えなかった。


「さすがに乾燥機はねえから、適当に乾かしてさっさと帰れよ。このNaCl小娘」


 ひらひらと片手を面倒臭そうに振って、俊介はその場から離れる。


 ……エヌ、エー、シー、エル?


 一瞬、何の事だかよく分からなかったが、とにかく浄化霊水が五本も入ったダンボール箱と金だらい、洗濯板を運ぼうと屈んだ時、ぶつけられた塩で真っ白な袖口が目に入った。


 そこで、やっと気付く。NaClが塩……ひいては塩化カルシウムの化学式である事を。


「もう~、バカにしてっ! 灰まみれのシンデレラだって、最後には幸せになれるのよ! 鳴海先生の方が、バカバカバカッ!」

「……まあまあ、そう言いなさんなって。ああ見えてナルちゃん、照れてるんじゃよ」


 ふいに背後から声をかけられ、麻衣はビクッと固まる。


 そろそろと首を動かして見てみれば、そこには先日の老婆が立っていた。

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