第47話



「……何なんですか、これっ!」


 そう叫んで、麻衣は通された場所を指差した。


 そこはどう見てもバスルームなのだが、まず、壁のあちこちに年単位のカビがびっしりこびりついている。


 いや、壁だけではなかった。バスルームのタイル張りの床やそこに転がっている洗面器にまで好き放題繁殖していて、当然だがかなり気持ち悪い。


 とどめは、正面の壁にかかっているシャワー。ホースからシャワーコックに到るまで黒みがかった茶色に錆び付き、壁から外れそうにない。そもそも、水の一滴さえ出てくる気配を感じられなかった。


 見る限りの、あらゆる状態を把握した上で、麻衣はどういうつもりだと思いながら叫んだつもりだった。


 だが、俊介は彼女のそんな様子を全く意に介さず、大げさに肩をすくめながら答えた。


「前にも言っただろ? この家の元の持ち主のババアは十年前に死んだって。それきり放置されてんだから、電気・水道・ガス共に止まったままなのは当たり前だろうが」

「ちょっ……それ分かってて、ここまで案内したんですか!?」

「ぴーちくぱーちくと、うるせえなぁ。安心しろ、超貴重なんだがこの水を分けてやる。これで洗濯と水浴びしろ」


 そう言って、俊介は手に持っていた大きなダンボール箱をどすんと麻衣の足元に置く。


 ダンボール箱には、『心霊弁護士組合認定 高級浄化霊水』と書かれてあった。

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