第47話
†
「……何なんですか、これっ!」
そう叫んで、麻衣は通された場所を指差した。
そこはどう見てもバスルームなのだが、まず、壁のあちこちに年単位のカビがびっしりこびりついている。
いや、壁だけではなかった。バスルームのタイル張りの床やそこに転がっている洗面器にまで好き放題繁殖していて、当然だがかなり気持ち悪い。
とどめは、正面の壁にかかっているシャワー。ホースからシャワーコックに到るまで黒みがかった茶色に錆び付き、壁から外れそうにない。そもそも、水の一滴さえ出てくる気配を感じられなかった。
見る限りの、あらゆる状態を把握した上で、麻衣はどういうつもりだと思いながら叫んだつもりだった。
だが、俊介は彼女のそんな様子を全く意に介さず、大げさに肩をすくめながら答えた。
「前にも言っただろ? この家の元の持ち主のババアは十年前に死んだって。それきり放置されてんだから、電気・水道・ガス共に止まったままなのは当たり前だろうが」
「ちょっ……それ分かってて、ここまで案内したんですか!?」
「ぴーちくぱーちくと、うるせえなぁ。安心しろ、超貴重なんだがこの水を分けてやる。これで洗濯と水浴びしろ」
そう言って、俊介は手に持っていた大きなダンボール箱をどすんと麻衣の足元に置く。
ダンボール箱には、『心霊弁護士組合認定 高級浄化霊水』と書かれてあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます