第46話

「……は?」


 さすがの俊介も、そんな麻衣の姿を見て、とっさに嫌味や皮肉を言う事ができず、間抜けな声を漏らす。


 それを聞いた麻衣は、すっと顔を俯かせ、小刻みに全身を震わせた。


「『は?』って何ですか、鳴海先生。もっと何か他に言葉はないんですか……」

「え、あ、あぁ……。ダイジョウブカ? イッタイ、ナニガアッタ?」


 到底心がこもっていない、誰にでも気付かれるような棒読みの言葉に、麻衣の心のどこかでプチンと音が鳴った。


 八つ当たりなのは分かっていたが、そうせずにもいられない。麻衣は声を大にして叫んだ。


「もう……、もう二度とここには来ないつもりで、また事務所探ししてたんです!! そしたらこの近くの一軒目でひたすら居留守使われて………。話だけでもと思って無理矢理入ろうとしたら、いきなりお塩をぶつけられたんですよ!! ひどすぎるでしょ、これ!」


 そう言いながら、麻衣はレディーススーツの真っ白な袖口を俊介の目の前にかざしてやる。


 俊介はその袖にびっしり付いている白い結晶を人差し指で掬い取り、ひと舐めしてみた。うん、しょっぱい。


「確かに塩だな。でも安心しろ、食卓用の普通の塩だ。ナメクジくらいにしか効かねえからさ」

「ナメクジと一緒にされたくありません! 昨日の今日で死ぬほど不本意なんですけど、洗濯機と乾燥機、それからお風呂貸して下さい!!」

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