第45話

翌日の昼過ぎ。鳴海心霊法律相談事務所である洋館の大きな玄関のドアを、けたたましく叩き続ける物音が聞こえてきた。


 昨夜は住職から謝礼金をもらったし、一人優雅な昼食も済ませた。依頼の電話もかかってこないし、さて更なる優雅な昼寝タイムに入るかと伸びをしていた鳴海俊介の眉間に、一筋の深いシワが入る。


「ふざけんなよ、おいっ……」


 俊介の脳裏によぎるのは、『急急侵入不可如律令』のお札と『心霊防音錠しんれいぼうおんじょう』という名前の鍵。


 どちらも心霊弁護士組合からわざわざ通販で取り寄せた、値段もそこそこ張るアイテムだったというのに、まるで効果ゼロな今の状況に、イライラが募っていく。


 大股の足早で書斎を飛び出した俊介は、一気に玄関まで辿り着くと、『急急侵入不可如律令』のお札を剥がして、『心霊防音錠』の鍵を開けた。


 そして、乱暴にドアを押し開けながら、こう怒鳴ってやればよかった。


「うるっせえ! こんな明るいうちから、どこの法律お悩み相談霊だ!! あいにく今は営業時間外だから、夜の九時以降に来い!!」


 だが、そんな怒鳴り声は途中で止まった。いや、最後まで言う事ができなかった。


 何故なら、玄関を開けたすぐ目の前に立っていたのは、いつもろくでもないお悩み相談に来るような浮遊霊達ではなく、頭から爪先まで真っ白に汚れたレディーススーツを着た佐伯麻衣だったのだから。

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