第44話

「何がそんなに気に入らん、麻衣?」


 ダイニングの堅い椅子に腰かけたまま、稔彦が呆れたような目付きで麻衣を見上げる。


「言っておくが、何をどう喚こうが、お前はもう鳴海君の所にしか行かせん。いい加減にあきらめろ」

「……女の子をお墓だらけの場所に平気で置いて帰るような人だったんだけど!?」

「鳴海君の所なら、弁護士の真似事くらいはできるだろう。それで満足しておけ」

「私は、弁護士ごっこがしたいんじゃないの!」


 再び、テーブルの上に両手を叩き付ける。


 あまりにも興奮しているせいか、手のひらにあまり痛みが伝わってこない。その代わり、ふぅふぅと麻衣の口から荒れた息遣いの音が漏れ続けていた。


 麻衣が言った。


「私の人生よ! 私が決めるし、もう決まってるの! 私は弁護士になります、絶対に!!」

「それは無理だと、何度言えば……」

「もうそれは聞き飽きたわよ! 鳴海先生の事務所にはもう行かない! 明日から、また他の事務所探すわ! 反対されても、絶対に行くから!」


 怒鳴るだけ怒鳴って、麻衣はダイニングから出ていった。


 おそらく、二階の自室で今日もふて寝をするのだろう。


 そう考えたと同時に溜め息が出た稔彦は、一人呟いた。


「何も分かってない……。本当にバカな娘だよ、お前は」

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