第43話



「……どういう事か、ちゃんと説明して!」


 夜中に帰ってきた娘に叩き起こされて、ガウン姿の佐伯稔彦の顔はいつにも増して不機嫌そうだ。


 その様子にはすぐ気付いたものの、今は一刻も早くたまるにたまった納得できない胸の内を吐き出したくてたまらない。


 麻衣は両手をダイニングテーブルの上にバンと叩き付けながら、さらに大声を張り上げた。


「どうしてお父さんみたいにすごい弁護士が、あんな訳の分からない人と知り合いなのよ!? しかもお世話になったなんて……!」

「前にも話した通りだ、麻衣。彼には十年ほど前、世話になった。できる事なら、それきりもう関わらずに済ませたかったがな……」


 ゆっくりと腕組みをしながら、稔彦が答える。それを聞いて、麻衣はふと思い出した。


『十年ぶりだったから、昨日はお前に気付けなかったけどな。……覚えてねえのか?』


 そういえば、実戦だとか言って連れ出される前に、鳴海先生もそんな事を……。


 え? もしかして私、子供の時にも今日みたいな経験したの!? それがあんまりトラウマ過ぎて、無意識に記憶から消しちゃったとか?


 いやいや、そんな都合のよすぎる事がある訳ない! と、麻衣は首をブンブン横に振る。


 何の根拠もないが、自分の記憶力には自信がある。あんな男、一目見てしまったら忘れたくても忘れられないだろう。何せ、幽霊専門の弁護士だなんて公言したのだから。

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