第37話

結界陣の中に入った途端に、高圧電流のような鋭い痛みと痺れは嘘のように消えたが、代わりに本の角で殴られた鈍い頭痛がじわじわやって来る。


 麻衣は結界陣の中にしゃがみこんで、振り絞るように言った。


「……いったぁ~いぃ……!」

「その中に入ってろっつったのに、無視した罰だ。この注意力散漫小娘が」


 涙目で見上げてみれば、目の前で俊介が微塵も変わらぬ横柄ぶりで麻衣を見下ろしていた。


 さっきの悲痛な顔は、きっと見間違いだったんだと思いながら、麻衣は少し潤んだ両目を拭った。


「だ、だって……」

「だって、じゃねえ。おとなしく見学してろ」

「い、今のはいったい何だったんですかっ!?」

「……大した事じゃねえ。たまにあるんだよ。ずぶの素人がこれを開いてる時の俺に触って、ビリビリきちまう時が」


 と、俊介は右手にある白くて分厚い本を少し掲げる。


 それは、洋館の書斎の本棚に置かれていたどの本ともまるで違っていた。


 まず、表紙にはタイトルも何も書かれていない。ひたすら真っ白なカバーで包まれていて、何の本なのかすら分からない。


 だが、やはりただの本ではないらしい。老婆の契約の時と同様、青白い光をゆらゆらと立ち上らせ始めたから。

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