第36話

「鳴海先生……?」


 再び声をかけてみるものの、俊介は白くて分厚い本のページに目を落としたまま、何事かブツブツ言ってるだけで、返事をしようとしない。


 自分一人だけが状況を把握できていない事に対して、徐々に我慢がきかなくなってきた。


 麻衣は先ほどからこちらを振り向こうともしない俊介に向かって、ずんずんと大股に近寄り、その肩を掴もうとした。


 だが。


「なるみせんせ……きゃああっ!?」


 麻衣の指先が俊介の肩に触れるか触れないかの所まで伸ばされた時、突然静電気のような衝撃が襲ってきた。


 いや、静電気などと呼ぶには甘いだろう。もっと強い……、例えるなら高圧電流に無理矢理触れさせられたような鋭い痛みと痺れまであり、麻衣は叫ぶ事以外何もできずに、なすがまま。


 それに気付いた俊介は、やっと麻衣を振り返った。その時の彼は、ほんの一瞬ではあったが、今にも泣き出しそうな悲痛な表情をしていた。


 麻衣が「え……」と呟くのと、俊介が白くて分厚い本を振り上げながら「……っ、このバカが!」と叫んだのは、ほぼ同時。


 そして、一秒後。白くて分厚い本の角が麻衣の頭を直撃し、めまいと激痛で彼女の体はふらふらと結界陣の中へ入っていった。

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