第35話
麻衣が霊園の中に一歩入ると、ちょうどその中心と思われる場所に俊介はうずくまっていた。
どうしたんだろうと麻衣が駆け足で近寄れば、すぐにガリガリッと、何かしら削っているような物音が足元から聞こえてくる。
見てみると、うずくまっていた俊介の右手には、そこら辺で拾ったのかこぶしほどの大きさの石が握られていて、それで足元に造られたアスファルトの舗装路に大きな円を描いているところだった。
慌てた麻衣が「ちょっ……鳴海先生!」と俊介の背後から声をかけた。
「何やってるんですか、こんな所でそんな落書きして!」
「……あ? 落書きだ? んな訳ねえだろ、よく見ろ」
描き終わったのか、俊介はすっくと立ち上がって、二、三歩ほど前に進む。
周囲にぽつぽつとある石灯籠の仄かな光ではあまりはっきりと見えなかったが、それでも俊介が描いた円は、確かに落書きとはほど遠い。見た事もない記号めいた文字が、円に添ってびっしりと連なっていた。
「これって……」
「素人小娘にも分かりやすいよう、端的に言ってやる。簡易式の結界陣だ」
「け、けっかい……じん?」
「ああ。仕事始めるから、とりあえずその中に入って見学してろ」
そう言って、俊介は背中を向けたまま、左手に持っていた白くて分厚い本を右手に持ち直してページを開いていく。
麻衣は首をかしげはするものの、その場に突っ立ったまま、結界陣とやらに入ろうとしなかった。
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