第32話

「だったら、鳴海先生。たった今、覚えて下さい。私は小さい頃から父の仕事ぶりを見て、ずっと憧れてきたんです。父のように立派な弁護士になりたいと思っています」

「ふ~ん……」

「だから、私に弁護士についてのノウハウとか心得とか、その他もろもろを教えて下さい!」

「ああ、それは無理だわ」


 自分の顔の前で両手を×の形に交差させ、有無を言わさずきっぱりと俊介は言い切る。


 心地よすぎるくらいの言い切り具合に、麻衣は自分の中の導火線が燃え尽きる前に、ハサミでちょっきんと断ち切られたような気がした。


 呆然と見つめ返してくる麻衣に、俊介は交差していた両腕を解き、はあ~とわざとらしい溜め息をついた。


「前に言ったよな? 俺は鳴海心霊法律相談事務所の所長だって。その前に、あのババアの幽霊も見たよな?」

「は、はい」

「それでもまだ俺を普通の弁護士だと思ってるなら、お前は相当な現実逃避小娘なんだな」


 また変な呼び方をと思ったが、麻衣は押し黙って考え込む。


 心霊って、やっぱり「そっち系」の意味の心霊? 言葉通りの? でも、鳴海先生は弁護士でしょ。いったい、どういう事なの……?


「まあ、よく分かんねえし信じられねえってのが普通だろうから」


 口を引き結んで考え込んだままの麻衣には目もくれず、俊介は椅子から立ち上がると、本棚の一つから真っ白くて分厚い本を一冊取り出す。


 そのまま振り返りもせず、言った。


「お前の入所祝いだ。特別にここの仕事内容を実戦で見せてやる、ついてこい」

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