第29話

それから約二時間後。麻衣は例の洋館の玄関の前に立っていた。


 次は絶対に入れないようにしておくと言っていた言葉通り、先ほどからドアノブを掴んで押しては引いてを何度も繰り返しているが、一向にびくともしない。


 見ると、ドアノブの上部にはこれでもかと言わんばかりに、いくつも鍵穴が付いていた。昨日見た時はこんなものはなかったはずだから、あれから慌てて取り付けたに違いない。


 あからさまな拒絶に、何だか無性に腹が立ってきた。八つ当たりに近いのは分かっているが、これでは他の弁護士事務所と同じだ。


 麻衣は玄関のドアを両手でだんだんと叩き始めた。


「ちょっとぉ! 昨日来た佐伯麻衣です! 父から連絡もらってるはずでしょ!? ここを開けて下さい! 開けて下さいってば!!」


 一、二分ほどそう叫びながらドアを叩いていただろうか。


 ふいに、ドアの向こう側からドスドスと不機嫌さを微塵も隠そうとしない足音がしてきたと思ったら、次にはあの男の声が聞こえてきた。


「ああ、くそ! やっぱ安モン買うんじゃなかった。入れなくったって、声は丸聞こえじゃねえかっ!!」


 ガチャガチャと、次々に鍵が外れていく音。


 それが鍵穴の数だけ聞こえて終わると、ドアは即座に開かれる。その隙間から鳴海俊介の眉間にシワが寄せられた顔が出てくると、麻衣を見るなり怒鳴り散らした。

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