第28話

「おばけ屋敷に住んでる、オカルト男なんですよ!?」


 麻衣の頭の中で、昨日の出来事がフル高速で再生されていく。


 古びた洋館、いきなり吸い込まれた行き止まりの部屋、おばあちゃんの幽霊、青白く光ってた分厚くて白い本。そして、鳴海俊介と名乗ったあの男――。


 無理無理無理! と、麻衣は全身を大きく震わせた。


「私は普通に勉強して、普通に弁護士資格を取りたいだけなんです! あんな怪しい場所と人の所でなんて……」

「確か、鳴海っていったんだっけ? そこの弁護士先生」

「え? は、はい」

「そっか。だったら、あたし知ってるよ。ナルちゃんでしょ?」


 あのおばあちゃんの幽霊が言ってたのと、同じ呼び方……!


 麻衣の両目が大きく開いた。


「ヒロミさん、知ってるんですか? あの人の事っ……」

「まあね。あたしも少し世話になってんだ」


 そう答えて、ヒロミは空を仰ぐ。麻衣はますます混乱した。


 だって、昨日のあの現象はどう見ても異常だった。もしかしたら、あの人も本当は幽霊なのかもと思ったりもした。


 でも、お父さんもヒロミさんもあの人を知っている。お世話になっているとも言った。どうして、何で……。


 ぼんやり考え込む麻衣に、ヒロミの声が優しく落ちてきた。


「だまされたと思って行ってきなよ。あんたの親父さんがナルちゃんの所に行けって言った意味、そのうち分かるよ。じゃあ、彼氏来たからまたね」


 え、と短く言って麻衣が頭を上げた時、行き交う人混みに紛れてしまったのか、ヒロミの姿はもう見えなくなっていた。

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