第26話
「……それで?」
翌日の昼過ぎ。穏やかな太陽の光が降ってくるいつもの歩道橋の下で、ヒロミが短く聞き返す。
ベンチに座ってうなだれていた麻衣が「え?」とゆっくり顔を上げてみれば、ヒロミは少し苛立っているように両腕を組み、右足の爪先で何度も地面を叩いていた。
「『え?』じゃないよ。そこまで言われて、当然あんた何か言い返してやったんだよね。その頑固な親父さんに」
「あ……いえ、何も。そのまま部屋に戻っちゃって……」
麻衣が静かに首を横に振ると、ヒロミはまるで自分の事のようにさらに苛立ち、「ああ、もう!」と自分の頭をガリガリと掻いた。
「あんたねぇ! 親父なんて娘に嫌われてナンボの存在なんだよ? 何でそういう時に限って、憎まれ口の一つや二つ言ってやらないかな!?」
「……それは、二、三日前に言っちゃったばかりだったんで。つい、気が咎めて」
「あり得ない。だからって次を遠慮してたら、親父さんに言い負かされるのなんて当たり前じゃん」
「う……」
「いっその事、親父さんから離れて自立すればぁ?」
「そ、そんな事できません! お父さんがあの家で一人きりになっちゃう!」
「それで自分がやりたい事の邪魔をされてりゃ世話ないわ。この強烈悪運ファザコン娘ちゃん」
新たに付け加えられた屈辱と複雑さが入り乱れるあだ名に、麻衣は再び深くうなだれた。
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