第22話



「……何あれ、何あれ、何あれ、何あれ、何あれ!」


 小一時間後。麻衣は自宅へと戻る帰路の中、ずっとそう呟きながら足早に歩いていた。


 たまにすれ違う人が何人かいたが、あまりにも麻衣がすたすた歩いていくせいか、彼女のブツブツ声に気付く事もない。


 それでも、麻衣は心の内にあるモヤモヤしたものを誰かにぶちまけたくて仕方なかった。


 何よ、心霊法律相談事務所って!


 私は、普通の……いや、優秀な弁護士がいるクリーンな法律事務所に入って、そこで勉強がしたいだけなのに!


 それなのに、何でいきなりおばあちゃんの幽霊に会ったり、初対面の男に怒鳴られたり、本の角で頭を殴られたりしなきゃいけない訳!?


 おまけに……、と麻衣は洋館を出た時の事を思い出す。


 ふんぞり返って偉そうに名乗った男――鳴海俊介の言動に、どう返していいか分からなかった。一つの単語で表すとするなら、ドン引き。うん、これに限る。


 何も言えず、呆然と見つめ返してくる麻衣に、彼はふんぞり返ったまま、こう言ったのだ。


「そういう事で、ここにはお前が求めてるものは鳥のクソほどもねえ。とっととさっさと出ていけ。次は絶対に入れねえようにしておくからな」


 言うに事欠いて、鳥のクソ……!?


 あまりの言われぶりに居たたまれなくなって、つい飛び出してきたものの、今になってふつふつと怒りが立ち上ってくる。


 もっと何か言い返しておけばよかったと、麻衣はさらに歩調を早めた。

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