第20話

「何じゃ、そんなにビックリしたかえ? ワシに触れられんとは、ずいぶん弱っちい子だねぇ」


 イタズラが成功して喜ぶ子供のような無邪気な笑顔を見せる老婆に、麻衣はコクコクと頷く事しかできない。


 それを見て、さらにけらけら笑った後、老婆は男を振り返って言った。


「残念じゃが時間切れだよ、ナルちゃん。さっきのは半月分にしかならなかったねぇ」

「あ!? ふざけんなよ、ババア!」


 頭を掻いていた男は、老婆の言葉を聞くなり、噛み付かんばかりに反論した。


「今のは無効だろ、無効! いや、むしろサービスしろ! さっきので三ヶ月分だ!」

「びた一文まける気はないさね。じゃ、また来月来るから、今度はきちんと四ヶ月分の賃貸料払いな」


 じゃあの、と最後にそう言うと、麻衣の目の前で老婆の姿は徐々に薄くなっていき、最後には空気に溶けるかのように消えて見えなくなってしまった。


「えっ……え? ええ!? いや、いや~! おばあちゃん、おばあちゃんが消えた! 消えちゃった~! きゃ~~~!!」


 人間一人が消えた事実が受け入れられず、麻衣はパニックになって喚き散らす。


 それを止めたのは「うるせえ!」という男の怒鳴り声であり、それと同時に、彼が部屋の隅から拾ってきた例の真っ白い本が麻衣の頭をばしんと直撃した。しかも、角で。

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