第18話

「あ、あはは……。何だったんだろ、今の」


 とにかく一度立ち上がろうと、麻衣は全身に力を入れる。


 その時、ふと正面を向いた麻衣の目の前で、ひどく奇妙な光景が繰り広げられていた。


 そこには大きくて立派な造りのデスクと革張りの椅子が揃っていたのだが、そのすぐ横に先ほどの老婆と、一人の男が立っていた。


 男は、ヒロミと同じ年頃だろうか。よれよれでシワだらけのYシャツに、ネクタイをだらしなく首元に巻き付けている。


 そして、やたら苦々しい顔をしながら老婆を見下ろす彼の右手には、ひときわ分厚くて真っ白い表紙の本。


 それらの何が奇妙な光景かと言えば、その真っ白い本が、ゆらゆらと揺れ動いているかのような青い光を放っていたのだ。


 しかも、男はそんな状態の奇妙な本を老婆の頭の上にかざして、何やらブツブツ呟いているではないか。


 絶対に普通ではないと思った麻衣は、気付けば座り込んだまま大声を張り上げていた。


「ちょっとぉ! お年寄りに、何をやってるんですかぁ!!」


 その途端、男の右手にあった真っ白い本が弾かれるように部屋の隅に飛んでいき、男が「何っ!?」と驚愕の声をあげる。


 そのままの勢いで麻衣の方を振り返った男は、とても端正で整った顔立ちをしていたが、一瞬後にはとんでもないほど大きな声で怒鳴り返してきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る