第14話

「おばあちゃん、どうしたの?」


 麻衣の呼びかけに、老婆はびくりと身を震わせて振り返る。


 そして、まじまじと麻衣を見やると、振り上げていた両腕を下ろしながら言った。


「……何だい? あんたもあたしゃと同類かいね?」

「え、いや……。私、ここには初めて来たんで……」


 ここが本当に法律相談事務所ならば、この老婆は依頼人だったのだろうか。何かトラブルがあって、怒鳴り込みにきたとか……?


 そう思いながら首を振って答えると、老婆は一瞬「ん?」と不思議そうな顔をしてみせたが、すぐに言葉を発した。


「違うとは思えんがのう……」

「いやいや、違いますから! ……で、どうかしたんですか?」

「どうしたもこうしたもないさね」


 老婆はむうと頬を膨らませ、玄関を忌々しそうに見上げた。


「あたしゃ、この家の持ち主なんじゃが、ここを貸してやってるナルちゃんが賃貸料を支払わないんだよ! もう三ヶ月分もたまってるってのに!」

「え、そうなんですか」

「いるのは分かってるんじゃが、居留守こいてる上にあたしゃを閉め出すとは……あのガキャ、いい度胸してるよ。こら、ナルちゃ~ん!」


 そう言って、再び玄関を叩き始める老婆の姿に、麻衣は困った。


 どうしよう。もしかして、問題ありきな事務所に来ちゃったのかな。


 でも、そんな事務所の名前を、あのお父さんがメモ書きしておくなんて思えないし……。


 とにかく、まずはこのおばあちゃんを落ち着かせようと、麻衣は老婆に手を差し伸ばした。

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