第12話



「ここで、間違いないわよね……?」


 翌日。昼過ぎになって、麻衣はようやく目的地に辿り着いたのだが、目の前に佇む建物を見て、思わずそう呟いた。


 昨夜見つけたメモには、『鳴海法律相談事務所』という文字以外に、そこのものと思われる住所が書かれてあった。


 本来なら電話の一本もしてから訪ねるべきなのだろうが、あいにく番号までは書かれておらず、どうせ今までもそうだったんだからと、飛び込みで向かう事にしたまではよかったのだが。


 今、麻衣の目の前にあるのは、大きくて芸術的な要素も兼ね備えた造りではあるものの、築何十年だと思わせるほどに古びてボロボロの洋館だった。


 その洋館をぐるりと取り囲む塀も同じくらい古く、ひび割れがひどいそれのあちらこちらに枯れかけのツタがくまなく絡み付いている。


 洋館にふさわしく、鉄の門扉もあるにはあるのだが、半開きになっているそれもすっかり錆び付いてしまっていて、今にも朽ちて外れてしまいそうだ。


 もしも、そんな門扉のすぐ横に、これまたボロボロの木材で作られた『鳴海』という表札がかかっていなければ、確実に空き家だと思って引き返していたに違いない。


 事務所の看板まではかかってないけど、鳴海って名前は間違ってないし。まあ、ひとまずは……。


 そう思いながら、麻衣は半開きの鉄の門扉をくぐって、洋館の敷地内に入った。

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