第10話
「麻衣。お前、島村君を覚えているな? 少し前、個人事務所を構える事になったとうちに挨拶に来てくれたんだが」
「う、うん……」
「その島村君の事務所が火事に遭ったそうだが……。お前、そこに通っていたな?」
怒りを含ませた冷たい声に、麻衣の肩がびくりと震える。
返事が来ないのを肯定と受け取ったようで、稔彦はソファから立ち上がると、肩越しに麻衣を睨み付け、
「何度も同じ事を言わせるな!」
と、声を大にして言った。
「麻衣、お前が弁護士になるのは無理だ。何度言えば分かる。いい加減にあきらめろ!」
「……っ、何で? 何でそうやって最初から決め付けるのよ!? 私、早く一人前になりたくて……!」
「そのせいで、どれだけ周りに迷惑をかけてきたと思ってる。島村君は私が知る限りで最も優秀な若手だったのに、彼の落ち込み具合は見るに耐えんかったぞ」
「島村先生にはお気の毒とは思うけど、火事は私のせいじゃないでしょ! 他の所だって、たまたま潰れて……」
「とにかくだ!」
麻衣の言葉を遮ると、稔彦は勢いよく全身を振り返らせて続きを言った。
「お前はもう何もするな、考えるな! お前に弁護士は無理だ!!」
何よ、それ。何よ、それ……!
目頭が熱くなる。目の前が涙でじわりと歪みそうになる前に、麻衣は怒鳴り返していた。
「何よ……。そんなに私が嫌!? そんなに私が憎いの!? お母さんを死なせた私が!」
リビングのドアを思いきり強く閉め、麻衣は二階の自室へと続く階段を駆け上がっていった。
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