第7話

「……で、これからどうすんのよ、あんた?」


 真っ赤なマニキュアを塗った爪の先で自分の頭をだるそうに掻きながら、ヒロミが問いかける。麻衣はしょんぼりとうなだれながら、小さな声で答えた。


「新しいバイト先はまた探すとして……。ひとまず、今日はこのまま家に帰ります。本当は島村先生にご挨拶していきたいけど、あんな事があって何かとお忙しいでしょうし……」

「まっすぐ帰るつもり? また親父さんに嫌味言われるんじゃない?」


 ふうと息を吐き出しながらのヒロミの言葉は、鋭い矢となって麻衣の全身にグサグサグサッと突き刺さる。


 確かに彼女の言う通りだが、どこか気晴らしに出かけようなんて気分には到底なれないし、『強烈悪運娘』の自分にそうそう付き合ってくれる友達だっていない。


 かといって、これからデートだというヒロミの側にいつまでもいるのも悪い。そう思った麻衣は、ベンチからゆっくり立ち上がりながら言った。


「いいんです、父の嫌味なんて子供の頃から聞き慣れてますから。もう耳タコです」

「ふふ、うるさく言われてるうちが花だよ。いずれ、何にも言われなくなるよりかはね」

「そうでしょうか」

「そんなもんでしょ、人間なんてさ」


 じゃあ、またねとヒロミは片手を軽く挙げて横に振ってくる。


 麻衣も同じように返すと、自宅までの道のりを重い足取りで辿り始めた。

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