第5話



「きゃ~ははははっ! あんた、また惜しげもなく最強の悪運を発揮したって訳だ」


 『島村法律相談事務所』があったビル街から少し離れた幹線道路を跨ぐ歩道橋の袂で、二十代後半らしき一人の女がさもおかしそうに大声で笑った。


 その笑い声は豪快と呼んでも差し支えないほどであったが、彼女が笑えば笑うほど、その隣に置かれたベンチに腰かける麻衣は顔を赤くしていった。


「もう! そんなに笑わないで下さいよ、ヒロミさん! 私、ものすごく真剣に悩んでるんですよ!?」

「あんたがいくら悩んだところで、その悪運ばかりはどうしようもないんじゃないの~? もはや才能と言い換えたって何も不思議じゃないわよ」

「こんな才能いりませんよ~……」


 がくりと肩を落としてそういう麻衣の頭を、ヒロミと呼ばれた女が苦笑混じりにそろそろと頭を撫でてやる。金色のロングヘアに少し派手なメイク、小麦色に焼けた肌にまとわせた服はどこかチャラチャラとした印象を放っていて、麻衣とは全く正反対だ。


 そんな二人が出会ったのはちょうど二年前の、ちょうどこの場所だった。


 十八歳になったばかりの麻衣が、法律相談事務所でバイトをしようと周囲を捜していた時、歩道橋の下で佇むヒロミに声をかけられたのがきっかけで、それ以来二人はここでよく会って話をするようになった。


 と、いうより、ここでしか会わない。何でも、ヒロミには長年付き合ってきた彼氏がいて、いつもこの歩道橋の下で待ち合わせてデートをしているのだという。


「じゃあ、私は彼氏さんが来るまでの暇つぶしの相手なんですか?」


 一度ふざけてそう聞いてみれば、ヒロミに「だって、あんたくらいしかいいなって思えなかったんだもん」と悪びれもなく答えられて、ちょっぴりだけムッとした事もあったが、それでも麻衣にとってヒロミは数少ない大事な相談相手だった。

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