Case.1 不法侵入

第3話

「……嘘でしょ?」


 一度ギュッと閉じていた両目をゆっくりと、おそるおそる開いてみる。どうか、見間違いでありますようにとひたすら願いながら。


 だが、そうっと静かに開かれた視界のど真ん中にあったのは、丸焼けの黒こげ状態になった見るも無残なビル一軒の姿。


 足元には焼け落ちてしまったのか、いびつな形になった看板が転がっていた。真っ黒なすすまみれのそれには、『島村法律相談事務所』という文字が辛うじて残っている。


「嘘でしょ~……」


 二度目の言葉を吐いて、彼女――佐伯麻衣さえきまいは、新品のレディーススーツが汚れてしまうかもしれない事にも構わず、その場にへなへなと座り込んだ。


 麻衣は今年で二十歳を迎える、現役の女子大生である。


 少々、小柄な体格なので、新品のレディーススーツをまとってみても、元々の童顔ぶりも相まって、どうにも幼さが抜けない。


 おまけに、先日になってやっと始めたメイクも申し分ないほどの下手くそぶりで、下唇の端からグロスがかなりはみ出している。


 そんな風体でへたりこむ麻衣の後ろでは、続々と近隣周辺の住民達が丸焼けになったビルを眺めにやってきていた。その中でも噂話がこよなく大好物と思しきおばさん達の声がすぐに聞こえてきた。

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