第61話
「冴島コーポレーションには探偵業もあるのか? でも、それで俺達家族の事を調べたとしても、誰も得なんかしないだろ?」
「あ……」
しまったと、真琴は思った。
今朝から自分の感情をうまくコントロールできていないって分かっていたのに、雄一が茂之のおつまみまで買わされていると分かったとたん、歯止めも我慢も利かなくなった。それでついまた来てしまったばかりか、西村みなみとしてこれでもかとばかりにしゃべったりして……。
心臓が一気に粟立つように早鐘を打ち、呼吸の感覚も短くなる。ここまでやってしまったら、いくら鈍感な人間でもいろいろと気付いてしまうだろう。ダメ、まだそれだけは。私はまだ、二人の幸せをちゃんと見届けていないのに……。
どうしよう、どうしようと真琴が悩む中、茂之の言葉はさらに続く。それを聞くたび、心臓の早鐘はさらに速くなった。
「そんな夢物語なんかあるはずねえとは思ってんだけど、でも、そうでないと説明が付かない。それくらい、お前の言動はあいつと全く同じだから……」
「ま、待って。それ以上は」
「なあ、お前ってもしかして」
これは、勘付かれている!? だとしたら、本当にまずいと真琴はぎゅうっと強く両目を閉じた。
もうダメだ。「死んでみたらワンチャンもらえるみたいなんで、ここは何の遠慮もなく転生させていただきます』キャンペーンの事なんて何も知らないとしても、茂之が
真琴がそう覚悟を決めた、次の瞬間だった。
「……おっと、そこまでにしておきな? オルフェウス先輩みたいになりたくないだろ?」
ふいにそんな声が聞こえてきたと思ったら、茂之の両目と口を背後からしっかりと塞ぐ手が見えて、真琴は大きく息を飲む。一方、視界と言葉をいきなり塞がれて混乱した茂之は、「うう、うう~!」と唸りながら暴れるが、その腕の主は全く離れる気配がないばかりか、呆れたような声で言ってきた。
「あれ? もしかしてあんた、超有名なオルフェウス先輩を知らねえの? 死んだ奥さんを取り戻す為にわざわざ冥界にまで忍び込んだっていうのに、あと少しのところで我慢できなくなって奥さんの事を振り向いちまったばかりに全部パーになったんだ。あんたも同じ目に遭いたい訳?」
「……ううっ!?」
「それが嫌だったら、目の前にいる女子高生を、今のあんたの頭の中で浮かんでいる名前で絶対に呼ぶな。一度でもその名前で呼んでみろ、二度とこいつには会えないと思え。分かったか?」
念を押すように言われて、茂之は二度三度とゆっくり頷く。それを見て納得したのか腕の主はそうっと離れていったが、次に茂之が視界を取り戻した時には、部屋のどこにも真琴の姿はなかった……。
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