第59話
「……たのもー!!」
訪ねてくる者は義理の父親しかいないとはいえ、防犯意識など全く持ち合わせていない茂之は、部屋の玄関の鍵がきっちりかかっているかどうかなどはこれっぽっちも気にしていない。ゆえに、いきなりものすごい音を立てながら玄関を開けられても文句など言えた立場などではないのだが、布団の中からがばりと起き出して「うるっせえ!!」と怒鳴り返した。
「誰だ、いったい! 訪問販売か保険の営業とかだったらお断りだぞ!!」
「……そんな訳ないでしょ、私よ!」
「あぁ!? ……て、冴島のお嬢様じゃねえか。今度は何の用だよ?」
家主の許可もなく、ずかずかと部屋の中に入ってきた真琴は、手に提げていたレジ袋らしきものをずいっと茂之に手渡してくる。思わず反射的に受け取ってしまった茂之だが、そのレジ袋の中身を見たとたん、不機嫌そうだった表情が一気に明るくなった。
「あれ? これって、俺が雄一に頼んであったつまみじゃねえか。お前が代わりに買ってきてくれたのかよ?」
「……まあね、あまりにも見かねたものだから」
そう答えたのは、制服姿のままの真琴だ。見れば学生カバンまで持っているので、おそらく学校の帰りにスーパーに立ち寄って買ってきてくれたのだろう。そう思うと、茂之はくつくつと愉快そうに笑い出した。
「冴島コーポレーションのお嬢様が、こんな中年おっさんの為につまみを買ってきて下さるとは……さぞかし滑稽な見ものだっただろうな。ひと目拝んでみたかったぜ」
「滑稽……? それって、あなたの息子が同じふうに買い物しててもそう思える訳?」
「ああ、まあな」
茂之はレジ袋の中に手を突っ込み、適当に掴み取ったつまみの封を開けて無遠慮に食べ始める。真琴は顔をしかめながらも、その様をじっと見ていた。
「だって、そうだろ?」
茂之が言った。
「我が息子ながら、あいつほど滑稽な奴を俺は他に知らねえ。おじさんの言う通り、こんなどうしようもねえ父親とはさっさと別れて、新しい家にでもどこにでも行っちまえばいいものを、何を好き好んでこんな所に俺と居続けるのか全く理解ができなくてな」
「……」
「そういや、雄一はどうした?」
「遅くなると思うけど? これを落とした事に気が付いてなかったみたいだから、今頃あちこち探し回ってるんじゃない?」
真琴はそう言いながら、先ほどのメモをスカートのポケットから取り出す。それを見て、茂之は「……本当にバカな奴だな、あいつは」と言い放った。
「こんなメモにこだわらなくても、適当な奴を買ってくればいいだけの話だろ? 全く、頭のいいバカって本当にいるんだな」
しかも、それが自分の息子とか笑えるぜ。最後にそう言葉をまとめて締めると、次の瞬間、真琴はとんでもなく怒った表情を茂之に見せた。
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