第53話
†
翌日の朝。高級そうな紺色のランドセルを背負った制服姿の真守は、ずいぶんげんなりとした表情のままで冴島家の門扉から外へと出ていく。その後ろから「待ってよ、真守君!」と学生カバンを持った真琴が小走りで追いかけてきた。
「途中まで一緒に行こうって言ったでしょ? 何で先に行こうとするのよ?」
「……そんなの、とてつもなくいたたまれねえからに決まってんだろ!?」
門扉から少し離れた所でぴたりと足を止めると、真守はきっと真琴を見上げながら恨めしげに言い放った。
「言いたい事は腐るほどあるが、一番面倒くせえのはやっぱりあの両親だ! あいつら、いったい何を企んでやがる!? このガキに何か恨みでもあるのか!?」
「恨みだなんて……かわいがってもらってるの間違いでしょ? そりゃあ、冴島コーポレーションの跡取りの一人なんだから、期待されている分だけのプレッシャーはあるかもしれないけど」
「あれがプレッシャーをかけてるって言うのか!? 気味悪くて仕方ねえよ!」
真守が言っているのは昨夜の両親の言動についての事だろうと、真琴ははあ~っとため息をついた。
昨日エンが帰った後、二人で両親の元に戻った時、まず母親がわあっと泣きながら真守に抱きつき、父親も側に駆け寄ってその小さな肩に手を置いた。
『ごめんね、真守ちゃん! あの日、あんなに助手席に座りたがってた真守ちゃんを無理矢理後ろに乗せちゃったから、あの事故で余計に怖い思いをして……それが今もトラウマになってるから、あんなに暴れちゃったのよね!?』
『真守、さっきは一方的に叱って悪かった。パパも、お前とお姉ちゃんが仲良しでない事があまりにも心配だったんだ。お前達姉弟には将来、手と手を取り合って、冴島コーポレーションを支えていってもらいたかったから……』
今生の記憶を辿る限り、厳しい面も持っている父親だが、家族に見え透いた嘘やデマカセをつらつらと言えるほど器用な男でもない事を真琴はよく知っていた。だから、自分達姉弟の仲の悪さを心配するその言葉は心の底から言っているものであると分かるのだが、それを真守は素直に受け取る事ができなかったようであり、半袖の口から覗いている両腕はぶるぶると震えている上に、鳥肌まで立っていた。
「気持ち悪いんだよ。人をガキ扱いしやがって」
全く信じられないものを見たと言わんばかりに、真守は吐き捨てるふうに言った。
「しかもだ、あんな露骨に『あなたの事が心配でたまらないんです』アピールまでするなんてよ。二人とも芝居がかってて、とても見てられなかったぜ」
「芝居だなんて……れっきとした親心って奴でしょ、私には痛いほど分かるんだけど」
「言うじゃねえかよ、姉ちゃん。自分じゃ子供育てられなかったくせに」
軽口のつもりで悪態をついた真守だったが、そこで何の反応も返さない真琴をやたら不思議に思った。ゆえに「おい?」と声をかけながら顔を上げてみたのだが、その瞬間、ひどく傷付いたかのような暗い表情をしている真琴の姿を見てしまい、真守は思わずヒュッと息を飲んでしまった。
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