第49話
「井崎恭平、享年十九歳。さっきも自分で言ってた通り、天涯孤独で家族はなし。生まれてすぐに乳児院預かりとなって、三歳からは児童養護施設で十八歳まで過ごす。まあ、よくあるお決まりのパターンというかテンプレっていうか、小学校低学年からヤンチャや悪さをし放題で、中学二年で伝説のヤンキーと呼ばれるまでになる。中学卒業後は進学も働きもしねえばかりか、殺人と強姦と薬物関連以外は何でもござれの、まさに悪の申し子って感じの半生を過ごした挙げ句、バイクの単独事故であっけない最期を遂げましたとさ」
「……おい、こら。人の前世をそんなつまんねえ箇条書きみたいな言葉で説明してんじゃねえぞ」
「へえ。自分でつまんねえって自覚してるんだな。だから虫けらに転生し続けたいって?」
「ああ? 何だと、てめえ……」
バチバチと火花が散りそうな勢いでにらみ合うエンと真守に全身の固さが解けた真琴は、慌てて二人の間に割り込んで「スト~ップ!」と両腕を張るように伸ばした。おかげで二人は真琴のそれぞれの腕に押されて、これ以上互いに詰め寄る事ができなくなった。
「おい、みなみ止めるなよ。こいつには閻魔大王様の恐ろしさって奴を改めて教えてやる必要があるんだからな」
「それはこっちのセリフだぜ。おい姉ちゃん、どけや。伝説のヤンキーの実力が閻魔野郎にも通じるか試してやるからよ」
「いいからやめなさいってば!」
両腕を張ったまま止め続ける真琴は、まずはエンの方を向いて「ちょっと聞きたいんだけど」と口を開いた。
「恭平君はずっと虫への転生を希望してたんでしょ? なのに、どうして今は真守君に転生させてるの?」
「そ、それは、そのぅ……バレちゃったから?」
「は?」
「真守の前は、蝉に転生させてたんだよ。ほら、蝉なら幼虫の間は七年かそこらを土の中で過ごして、成虫になったら一週間で寿命を迎えるだろ? つまり最低でも七年と一週間は時間が空く訳で、俺もその間ちょっとサボろうと思ってたら……はい、それが赤鬼のお局様にバレまして」
『何やってるんですか、閻魔大王様!? あなたの立ち上げたキャンペーンは、あくまで前世に未練を持つ死者を再び人間に転生させるものでしょうが!! それを言うに事欠いて、虫けら!? しかも乞われるままに何度も!? いい加減にして下さい! 予算にも都合ってものがあるんですし、これ以上採算が取れない事をしようというのなら……先代にご報告するしかありません事ね~?』
「……だから恭平。お前の蝉としての寿命が切れたと同時に、大慌てで冴島真守に転生させたの。他にどうしようもなかったんだから、今回はあきらめろ」
赤鬼のお局様に怒られた時を思い出したのか、真琴や真守からちょっと視線を外してからそう言うエン。大して真守はギリギリと噛みしめる歯を剥き出しで、エンをにらみ続けた。
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