第43話

「無理だよ。シゲちゃんの事はずっと幼なじみとしか見てなかったし、これからもそれはきっと変わらない」

「お、俺はずっとみなみを一人の女として見てきてたぞ!?」

「あと、これまで何人もの彼女を紹介されてきた身としては、とてもじゃないけどシゲちゃんをそんな目で見れないよ。これまで通り、いつまでも仲のいい幼なじみでいようよ? ね、そうしよう?」


 ……ガーン!!


 実に分かりやす過ぎる擬音が聞こえてきそうなほど、目の前でショックに打ちひしがれる茂之を置いて、みなみはその場を離れた。


 これでいい、これでいいんだ。私だってシゲちゃんの事は、ずっと前から同じ思いで見てきたけど、もし万が一にもこれまでの彼女と同じような破局を迎えたら、絶対に立ち直れない。これまでずっと培ってきた関係も全部壊れて、何もかもなかった事になる。だったら悲しいけど、幼なじみのままでいた方がいい。そして、本当にシゲちゃんの事を幸せにしてくれるいい人が現れたら、その時は心から祝福してあげよう。みなみは、自分に何度も何度もそう言い聞かせた。


 しかし、茂之という男は非常に打たれ強かった。それからというもの、毎日新しいバラの花束を抱えてはみなみの前に現れ、同じプロポーズを何度も繰り返した。その都度みなみもしっかりと断るし、茂之は分かりやすくショックを受けていたのだが、それでもめげる事なくみなみの元を訪れた。


 そんな日々が、一ヵ月以上も続いた頃だろうか。ついに根負けしたみなみが「あー! もう分かったわよ!!」と叫んだ時が、茂之の思いが遂げられた瞬間であった。


「み、みなみぃ……!」

「シゲちゃんの気持ち、しっかり伝わった! プロポーズ、謹んでお受けします! だから、いくらもったいないからって、毎日バラの花束を散らしたお風呂に浸かるのはやめてよ! 匂いがうちまで飛んできて、鼻がバカになっちゃったんだから!!」

「うん、うん分かった! 今日からヒノキの入浴剤使うわ! みなみ、ありがとう!! 俺、お前の事、一生大事にするからな~!!」


 そう言って、子供のようにはしゃぎまくる茂之を見て、みなみはようやく長年の胸の奥の痛みが取れたように感じた。


 どうしてシゲちゃんが自分を選んでくれたのかはよく分からないけど、この人となら家族として一生支え合って生きていける。素晴らしい人生を一緒に歩んでいける。そう信じて疑う事さえなかった。まさかこのわずか四年後、自分が二十四歳の若さで先立つとはこれっぽっちも思いもせずに……。

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