第42話
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「お前の事がずっと好きだった! みなみ、俺と結婚してくれ!!」
実家が隣同士の幼なじみであり、これから先の生涯も仲のいい友人として付き合っていく事になるのだろうなと思っていた相手から、まさかいきなりのプロポーズをされるとは。当時二十歳になったばかりの岸本みなみは、年の数と同じ本数のバラの花束を持って目の前に立っているスーツ姿の西村茂之を目の前にぼんやりとそんな事を考えていた。
実際、西村茂之という同い年のこの男は、男女問わず実によくモテた。男友達からはユニークがあって頼りがいもあり、いけない事はいけないとはっきり注意してくれるところに好感が持てると言われ。女子からは誰に対しても誠実で、運動神経も抜群なところに憧れると、幾度となく告白されているところを見かけた事もあった。
「みなみ。この子が今付き合ってる俺の彼女♪」
デレデレに溶け切った顔でそう言われながら、彼女ができるたびにそう紹介されてきた。すると相手は少しムッとした表情を見せたり、逆に「私の知らない西村君の事、よかったらいろいろ教えてね?」と信頼しきった様子で聞いてきたりするので、みなみははた迷惑に思うと同時に、何故か胸の奥の奥がチクッと痛むのが不思議で仕方なかった。
その長年、不思議に思っていた事が、茂之からのプロポーズで一気に紐解かれた気分になった。そうか。私、シゲちゃんの事、ずっと前から好きだったんだ。
しかし、物心ついた頃からの付き合いが災いして全く素直になれず、みなみはわざとらしいため息を一つ付いてから「どういう事?」と尋ねてみた。
「確かシゲちゃん、三ヵ月前に新しい彼女できてたよね? あの、ものすごく美人のギャル系お姉さんはどうしたの?」
「今日、この日の為に別れてきた!」
「……はい?」
「それにあいつ、結構金遣いと性格が荒くてさ。何もかもが、これっぽっちも合わなかった!」
「何それ? だから、今度はあのお姉さんとは真逆の私って訳?」
嬉しいと素直に言えなかった。三ヵ月ほど前、見た目がとても派手な金髪の年上女性を彼女だと紹介された時は、胸の奥の奥でずっとくすぶっていた痛みがひときわ大きく波打っていたというのに。だからといって「この人、何だか怪しいよ。やめときなよ」とも言えなかったくせに、いざ茂之が振り向いてくれても、なかなか首を縦に振る事ができなかった。
「……ちょっと無理」
やっと口を開いて言えた言葉が、まさかの拒否だなんて。みなみは自分でもかなり驚いたが、それでも言葉を続けた。
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