第40話

「何せ生まれて初めての告白だったからさ。それこそ本で読んで勉強したり、イメトレなんかもしてみたんだけど、やっぱりうまくいかなかった。下手くそな告白で、本当にごめん」


 最後にそう言って、軽く頭を下げてくる雄一。決して何も悪い事などしていないのに、何度も謝罪の言葉を綴ってくる息子の姿に、真琴はもう泡を吹いて倒れてしまいたくなった。


 あ、あり得ない。いくら転生してきたからって、こんなの絶対あり得ないでしょ……。


 雄一は生まれて初めての告白だって言った。それが全くの言葉通りだとしたら、今生の私は何よりも代えがたい息子の大事な初恋と初告白を、こんな悪役令嬢な子で迎えさせたっていうの!? しかも最悪な形での黒星で……!


 シゲちゃんと雄一の幸せを見届ける為に転生してきたのに、これじゃまさに本末転倒! 幸せどころか、永遠の黒歴史かトラウマになるじゃないの!! 万が一、この真琴って子のせいで雄一が女性不信にでもなったら、それこそ一生ものの問題だわ!! 孫の顔が見られなくなっちゃう!!


 何とかしなくちゃ、と真琴は雄一をじろりとにらんだ。


 仮にも昨日フッたばかりの相手に、このように言ってくるあたり、おそらく……いや、十中八九、雄一の中にはまだ真琴への恋心が残っている事だろう。こんな口も性格も悪い子のどこにそんな要素があるのか全く分からないが、もしここで引導を渡すような形を取ってしまえば……。


 エンの言葉を借りるのならば、まさに「ワンチャンあるかもしれない」今の状況に期待して、真琴は厳つく腕を組んだ。


「確かにね。今まで生きてきた中で、最もふざけてるのかと思ったくらいの告白だったわ」


 ふんっとわざとらしく鼻を鳴らしながら、真琴は言葉を続けた。


「大体、この私を誰だと思ってる訳!? 冴島コーポレーションを担う冴島家の長女で、いずれは弟や将来のお相手と一緒に世界へと羽ばたく人間なのよ!? そんな私と、まぐれで推薦入試に受かったような一発屋のあなたとじゃ、そもそも住む世界が違い過ぎると思わないの!? いい加減、身の程をわきまえなさい!!」


 ああ、こんな事言いたくないし、できる事なら麻酔なしでこの口を隙間なく縫い付けてしまいたい!! でも、でも自分がこうする事で、愛する息子がこれ以上嫌な女の子に夢中になるよりは。これ以上無駄に傷付いて、貴重な時間を台無しにしてしまうよりはと、真琴は心を鬼にして罵詈雑言を浴びせ続けた。


 だが、しかし。


「……え? うん、もちろん分かってるよ?」


 まるで真琴の罵詈雑言など、それだという事すら気が付いていませんと言わんばかりに、雄一はきょとんとした顔のまま、首をかしげる。それを見て、真琴の体はぴしりと固まった。

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