第35話
「注意事項の三つ目……?」
そういえば、全く記憶していなかったと真琴は改めて思った。
確か一つ目は、転生は魂をまっさらにするという成仏の手順をするかしないかで、前世の記憶の残り具合が決まる。成仏の手順を行わずに転生した場合は、個人差は出るが前世の記憶は残る。
二つ目は、転生先は今生を生きている命であり、前世とは全く違う存在なのだから、転生先の人生を無視して好き勝手しない事。
そして三つ目は……。
「ねえ、エン。注意事項の三つ目って何だったっけ?」
顔を上げて、ふと問いかけてきた真琴に、エンも思わず「は?」と言ってしまった。
「ちょっ……みなみ、まさか覚えてないとか言うなよ?」
「ごめん、そのまさかで覚えてない。確か前世から生まれ変わったって事は個人情報に関わる超トップシークレットってくらいしか……」
真琴がそう言うと、エンは片手で額を押さえるようにして「……マジかぁ~」と気が抜けたような声を出した。
「じゃあ、さっきのはガチのガチでヤバかったんじゃねえか。もしあの時、茂之がみなみの名前を呼んでたら、一発アウトのレッドカードもんだったんだぜ?」
「え? どういう事?」
「これ、よく見ろよ」
エンが額を押さえていた手をすっと宙にかざすと、その真上からポンッと弾けるようなかわいらしい音と共に数枚の書類が現れた。それは死魂水先案内所でみなみがエンに提出した、転生に関する希望書だった。
「ほら、ここ。ここの注意事項のところ、しっかり読んでみ?」
エンが指差す先の箇所を目で追う真琴。そこには、しっかりとこう書かれてあった。
『注意事項その③
前世からの転生は個人情報に関わる超トップシークレットの為、一部の例外を除いて、今生を生きる誰かに決して知られてはいけない。万一、今生の誰かに確信を持たれた上で、一度でも前世での名前で呼ばれるような事があれば、転生者は即刻前世の記憶を消去され、二度と思い出す事は叶わない。また今生で関わった全ての者からもその間の記憶は完璧に抹消され、決して思い出す事はない』
「え? マジで……?」
「マジで!」
こっくんと大きく頷くエンの様子に、決して嘘や冗談の類ではないと思い知った真琴は一気に冷静になり、同時に先ほどの己の言動を振り返った。
ちょっと待って? 私、さっき思いっきりシゲちゃんって呼んでなかったっけ? シゲちゃんの事をそう呼んでたのって、私だけだったよね? それに、オバケが出たとか何とか言って抱きついちゃったっていうか……あれも、私とシゲちゃんだけしか知らない二人だけの思い出だったりするし!
「こ、これって今、ちょっとヤバい感じ……?」
「ちょっとどころか、気付かれた可能性大かもな」
まるでトドメを刺してくるようなエンの言葉に、真琴の口から冴島家全体に響くような金切り声が飛び出してしまった。
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