第34話

「そ、そんなに自分を責めるなって、みなみは何も悪くねえんだから!」


 自分を責めて泣き出した真琴の様子に慌てふためき、エンは座り込んでいる彼女の周りをちょろちょろと回り出した。


 正直、エンはどうしていいのか分からずに困り果てていた。今の今まで閻魔大王として様々な死人の相手をしてきたが、これほど前世の家族を思いつつ、自分の事を責めまくる転生者は初めてだったからだ。


 大抵の人間は天国行きを告げれば喜び勇むし、逆に地獄行きを命じてやれば泣くわ喚くわ暴れるわで、とにかく単純明快だった。輪廻転生株式会社に就職した時は、定年退職を迎える数百年先まで、そんな扱いが簡単過ぎる連中の相手をしなくちゃいけないのかと、エンは全くやりがいを見出す事ができなかった。


 だから、自分がプレゼンした『死んでみたらワンチャンもらえるみたいなんで、ここは何の遠慮もなく転生させていただきます』キャンペーン案が通った時は、入社して初めてやる気がみなぎった。このキャンペーン企画を成功中の成功に導き、閻魔大王一族の中でもトップクラスの成績と出世を果たしてやる。そう意気込んで取り組んでいた中、出会った死人のうちの一人が西村みなみであり、エンが初めて必要以上に関心を持った相手だった。


 こんなに家族思いな人間って、現世で言うところの希少種っていうか、天然記念物っていうか、はたまた絶滅危惧種っていうか……とにかくエンはみなみを気に入ってしまい、仕事を抜きにしてもいろいろと手助けしてやりたいと思うまでの情が湧いてしまった。本来、閻魔大王として平等性に欠けるかもしれないが、アフターケアと称してちらっと様子を見るくらいはギリOKだろうという考えの下、現在に至る。


 だが、こういった場合の対処の術など、エンは全く持ち合わせていない。輪廻転生株式会社の社員マニュアルに今の状況に応じたものは一切記載されていなかったし、赤鬼のお局様からしっかり心に留めておくようにと再三に渡って言われていた『閻魔大王としての心得』を右から左へと流してしまっていた事もひたすら後悔した。


 情けない。前世の家族の現在の様は、本当にみなみが悪い訳ではないのに、うまく慰めたり説明してやる事もできない半端な閻魔大王である自分が。エンはひたすら真琴の周りをちょろちょろしながら、言った。


「なあ、元気出せって。本当にみなみは何も悪くねえんだから! な?」

「……」

「あ! もし必要なら、現世課の連中の袖の下にちょいといい物をやって、みなみの家族達に関するレポートを持ってこさせようか? それなら一発で、みなみの知りたい事全部分かるぜ?」

「……いいよぉ、そんなこそ泥みたいな事しなくて」

「そ、そんな遠慮しなくても……そ、そうだ! さっきは本当にちょっとピンチだったよな。危うく注意事項の三つ目に触れるところだったんだから」


 なかなか顔を上げてくれない真琴の気分転換になるかと思い、エンはとっさに話題を変えたつもりだった。だが、その注意事項の三つ目という言葉に真琴はぱっと反応して、思わず涙が引っ込んでしまった。

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