第33話




「……いや~、さすが俺様、閻魔大王様! 人間でいうところの、まさにファインプレーって奴だっただろ?」


 冴島家に飛び込むように帰ってくると、母親や使用人達からの心配の声をよそに、真琴はそのままの勢いで自分の部屋と入る。そして天を仰ぎながら「エン!」と声を張り上げた。


 すると、いつものようにエンが現れ、自画自賛とばかりに先の言葉を言うものの、そんな彼を褒める事も感謝する事もなく、真琴はきっと鋭い目つきでにらみつけた。


「もしかしなくても知ってたんじゃないの、今のシゲちゃんの事……。だから、あのタイミングで助ける事ができたんじゃ」

「お、おいおい、変な勘違いするなよ。前にも言っただろ? 管轄や担当が違うから、閻魔大王は今生を生きてる人間の詳細な管理や把握はできねえって。それに、前の家に行く時もムチャはするなって言ったじゃんかよ!」

「……でも、ああやって私の事を連れ出してくれたって事は、覗き見くらいはしてたんでしょ!?」

「そ、それは……やっぱり気に入ってる人間の動向は心配になるっていうかぁ。浄玻璃じょうはりの鏡をちょこっと応用して、見守りカメラ機能になったつもりでだな……」

「うぅ~! うぅ~!!」


 やり場のない怒りや悲しみやショックが全部ごちゃ混ぜになって、八つ当たりとは分かっているものの、真琴はベッドの枕やら机の上の教科書やらを手当たり次第にエンへと投げ付ける。そんな事をされても大して痛くも何ともなかったが、彼女のつらさを見るだけでも充分にその気持ちは理解できていたので、エンは「いてて、みなみ痛いって!」と言いながら、敢えてわざと受けてやっていた。


「うぅ……シゲちゃん、雄一、お父さぁ~ん……」


 ついには手近に投げる物がなくなって、真琴はその場にぺたりと座り込んでしまう。続いて、ぐすっと鼻水を啜る音まで聞こえてきたので、エンは慌てて彼女の側に駆け寄った。


「だ、大丈夫か、みなみ? 気をしっかり持って……」

「……じゃ、なかった」

「え?」

「皆、全然幸せそうじゃなかった。まさか、あんな生活してただなんて。私が、私があんなに早く死んじゃったから……!」


 つらくて悲しくて、真琴は自分自身をとことん責めた。


 たった二十四年しか西村みなみとして生きてこれなかったから、残された家族があんなふうになってしまったのだと。もう少し、せめて今の茂之と同じ年になるくらいまで生きる事ができていれば、もっと違った別の形で幸せになれていたかもしれなかったのに。その手助けすらできずに死んでしまった前世の自分を、そして転生してもなお、何の役にも立たない現世の自分を、真琴はとことん責め続けた。

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