第24話

「私らしい、ですって? ずいぶんと知ったふうな口ぶりじゃない。あなたに私の何が分かるって言うのかしら?」

「いや、それは……もちろん、全部は知らないけど」

「だったら、余計な事は言わない方が身の為だと思うけど? あんまり気持ち悪い事言われると、鳥肌が立ってしょうがないわ」

「う、うん。僕なんかがこんな事言って、迷惑だって事は分かってるんだ。でも!」


 真琴が後ずさってしまった分よりも多く、雄一が前にずいっと足を踏み出したせいで、二人の間の距離はほんの少しだけ縮まる。真琴の胸の中の早鐘がさらに忙しなく鳴り響いた。


(ダメダメダメ! 何をときめいちゃってるのよ、私は!? こんな子は雄一にふさわしくないし、それ以前に私は雄一のお母さんなんだから!!)


 これ以上一緒にいても、またひどい事を口走るのが目に見えている。そう考えた真琴は急いで踵を返し、その場から歩き出す。「さ、冴島さん!?」と戸惑いの声をあげる雄一の顔はとても振り返れなかった。


「寝ぼけた事を言ってる暇があったら、一分一秒でも多く勉強したらどうかしら? まあ、さっきも言ったけど、次の定期テストでは実力の違いというものを見せてあげるから、さらに身の程を知るのね」


 あっははは……と、実に悪役令嬢らしい高笑いまでオプションのようについてきて、真琴は今日だけで、どれだけ「もう一度死にたい……」と思ったか知れない。そんな彼女の気持ちなどこれっぽっちも知る由のない雄一は、意を決したように「冴島さん!」と大きな声で言った。


「僕、知ってるから! 冴島さんが本当は優しくて、一人でいろんな悩みを抱えてて、それでも一生懸命頑張ってる普通の女の子なんだって! だから僕は、冴島さんの事が好きになったんだ! それだけは、どうか覚えてて!!」


 ……ん? 今、私の息子は何て言った?


 事故の直前まで実の弟にトラウマレベルの暴言は吐くわ、精いっぱいの告白をしてきた相手にすらゴミを見るような目であしらおうとするわな女の子が、実は優しくて悩みを持ってて、一生懸命頑張ってる普通の女の子って言わなかった!?


 雄一の視界から消えるまで静かな足取りで歩いていた真琴だったが、いざ校舎の角を曲がった瞬間、出せるだけのスピードを持って走り出し、近くの女子トイレに駆け込む。そして、一番奥の個室に入って鍵をかけると、そこの便器を掘った穴に見立てて叫んでしまった。


「やっぱり異性の趣味が悪すぎる! シゲちゃんはいったい、どういう教育をしてきたのよ~~!!」


 放課後ゆえ、近くに人影がいない事が幸いした。真琴のその叫びは誰にも聞かれる事なく、やがて水と一緒に便器の奥へと流れていった。

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