第二章

第23話

「さ、冴島さん……?」

「まぐれで推薦合格できたからって、この私と同等にでもなったつもり? それ以外は全く何の取り柄もないモブが、思い上がるんじゃないわよ。あなたなんかより、道端の雑草の方がよっぽど魅力あるんじゃない?」


 次から次へと暴言を浴びせられるたび、雄一の顔はどんどん青く、うつむきがちになる。それを目の当たりにして、その原因である当人の真琴は心の中でひたすら謝っていたし、何なら泣きながら土下座したい気分だった。


(ああ、ごめん! ごめんね、雄一! まぐれで合格だなんて、そんな事全然ないわよ! あんな難しい試験をクリアできた雄一は私の自慢の息子だし、とっても魅力的な子! この真琴って子の目が節穴なだけなのよぉ~!!)


 今すぐエンをこの場に呼び出して、胸倉を思いっきり掴んで振り回してやりたい。そして、一緒に土下座して、事の次第を話してしまいたい! 私は、私はあなたのお母さんなんだって……!


 悪役令嬢の顔を保ったまま、心はそんな具合にもやもやしていた真琴であったが、ふと、雄一の様子がおかしい事に気付いた。ここまで侮辱に等しい暴言を吐かれたのだ。下手すればどうしようもなく傷付けたと思っていたのだが、目の前にいる雄一は笑っていたのだ。先ほど教室で見せていた時と同じように、ちょっと困ったような、それでいてどこか嬉しそうな……そんな笑顔だ。少なくとも、今の真琴の暴言に傷付いているといった様子はこれっぽっちも見受けられなかったのだ。


 これには真琴もずいぶんと戸惑い、思わず一歩後ずさってしまった。


「ち、ちょっと……何を笑ってるの? さんざんけなされて、ついにおかしくなっちゃった?」


 心の中では「どうしたの雄一? 本当にごめんね、大丈夫?」と言っているのに、またそんな憎まれ口を言ってしまう。だが、雄一はそんな真琴の言葉にゆるゆると首を横に振りながら「ううん、大丈夫だよ」と答えた。


「むしろ、ほっとしてるんだ。冴島さんらしい返事の仕方だなあって」

「えっ⁉」


 もしかして、雄一は玉砕覚悟で告白してきたって事? こんな性格悪い子に、あれだけひどい事を言われるって分かった上で!? ……何て、何て優しくて健気な子なの!? 異性の趣味は今のところ最悪過ぎるけど、雄一と将来お付き合いできる子は本当に幸せ者よ! 雄一は絶対、今時でいうスパダリって奴になるわ! そして今世紀最大の素敵な夫になって、イクメンにもなって、周囲の誰からも好かれる最高のおじいちゃんになるのよ!!


 その為には、こんな悪役令嬢感が満載な女の子の事なんか一刻も早く忘れさせてあげないと!


 改めてそう決意した真琴は、厳つく腕組みをして雄一をにらみつけた。

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