第21話




 それから丸一日。真琴は自分の物よりやや斜め方向に離れた席へと座る息子・雄一の姿をずっと見守っていた。休み時間のたびに、クラスメイト達が取り巻きのように取り囲んでくるのは少々……いや、かなり嫌気が差してたまらなかったが、授業が始まるたびに真剣な表情で黒板と向かい合う雄一の姿に幾度となく癒された。


 ……うん、やっぱりシゲちゃん似だ。あの、ちょっと背中を丸めて座る仕草なんてそっくりじゃない。あ、あのペン回しのやり方。普通より逆回転なのもシゲちゃんのやり方だ。こんな難しい高校に入れてくれたくらいだもの、再婚していようとしていまいと相当苦労をかけさせてしまったに決まってる。ごめん、ごめんねシゲちゃん。私が早死にしてしまったばっかりに。


 こうなってくると、かつて心から愛した前世の夫に会いたいという気持ちがさらに強まった。


 こんな性格も口も悪い女の子からどんなに嫌味を言われても、決して言い返す事のない優しさ。そして、将来にきっと役立つであろう賢さを息子に与えてくれた。幸せに暮らしているかどうか見届けたいとしか思っていなかったけど、息子の事をここまで知ったからにはどうしても感謝を伝えたくなってしまった。注意事項を破らない範囲でとエンは言っていたけど、これくらいなら別に構わないんじゃないかと真琴は思い始めていた。


 そうなってくると、時間という概念はあっという間に過ぎていくように感じるものらしく、気が付けばすっかり放課後となってしまっていた。帰りのホームルームの終了を告げるチャイムが鳴ったと同時に思いふけりから我に返ると、雄一の姿はもう席から消えてしまっていた。


 ああ、しまった。昨日は学校帰りに行ってみようかなと思っていたけど、今の状況だと、よくよく考えてみなくても今生の自分がいきなり一人で訪ねていくのはさすがにおかしい。だからさっきの事を謝るなりして、そのていで雄一と一緒に家まで行こうと思っていたのに。


 まだ遠くに行ってはいないだろうし、もしかしたら部活か委員会に入ってるかもしれない。とりあえず昇降口まで行って雄一の靴が残ってるかどうか確認を……!


 そう思い立つや否や、真琴はクラスメイト達からの遊びの誘いに一切耳も貸さず、急いで昇降口まで駆けた。そして逸る気持ちを抑えられないまま、雄一の靴箱の位置を探し当てようと一つ一つを覗き込んでいった時……。


「ん? 何これ……」


 自分の靴箱の中にあるローファー、その上に一通の無地の封筒が乗せられている事に気が付いた。この急いでいる時に、いったい誰からだろう。そう思いながら、封筒を手に取ってその封を開けた。すると。

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