第19話
「うん、皆おはよう! 今日も全員そろってるな!」
熱血漢とも取れるような大きな声で挨拶した担任は、クラス全員分のプリントを持って自分の後ろを付いて歩いてきていた男子生徒を振り返って、さらに言葉を続けた。
「西村も朝から手伝い、本当にありがとう! 次の学期はお前がクラス委員になったらどうだ?」
「いえ、そんな! 僕なんかじゃ、とても務まりませんから……」
照れ臭そうにそう言いながらプリントの束を教壇に置く少し小柄な男子生徒を見て、真琴の心臓がドクンと一拍大きく鳴り響いた。
(え、何これ……? 私、あの子の事を知ってる。理屈なんかじゃない。体の中の血が、魂がそうだって強く叫んでる……!)
胸元を押さえながら、おそるおそるエンの方を見やる真琴。エンはにたっと笑いながら、サムズアップのポーズを取った。
「お前の想像通りで間違いねえよ」
ああ! エンのその言葉に、真琴は再び死んでしまいそうになった。
担任の横で困ったような笑みを浮かべているのは、間違いなく前世・西村みなみの息子である西村雄一だった。
まだ成長期が満足に来ていないのか、顔立ちは幼い印象が強く残っているが、夫によく似ている。身長がなかなか伸びてこないのは160センチくらいしかなかった前世の私の遺伝のせいかな? でもまだ高1なんだから、まだまだ伸びしろはあるよね? これからもっともっと大きく、素敵な男性になっていくよね……! そう思うと、真琴は目頭が熱くなるのを抑える事ができなかった。
うん、本当に大きくなった。最期の瞬間に見えたのは、シゲちゃんの太い腕の中にすっぽり包まれるくらい小さかったのに。指先で触れるのが精一杯だったあの赤ちゃんが、こんなに大きくなったんだ。しかも、こんな難関進学校に入学できるくらい賢くなって……!
感動と喜びで、ついついじいっと長い時間、雄一の姿を見てしまう真琴。だが、それに担任が気付いてしまい、ふっと苦笑いを浮かべながら言ってきた。
「こら、冴島。無事退院したのはいいが、戻ってくるなり西村をにらみつけるのはやめてやれ。同じ推薦枠で満点合格した、言わば同志だろ~?」
え……? 担任のその言葉に、真琴は思わず固まった。
今生の記憶通りなら、あの推薦入試の総合テストはかなりの難問ばかりで、中には大学生でも解くのが厳しいものまであった。冴島真琴は優秀な家庭教師が何人もついていた上、超有名な進学塾にも通っていたから、当然の結果としてクリアしなければならなかったが、まさか我が子も同じ努力を重ねていたなんて……!
ああ、嬉しい。まさか息子と同じ教室に通えるだなんて。こんなの、ごほうび以外の何物でもないわ……!
転生してきた事を初めて心の底から感謝しながら、真琴は言うべき言葉を言うべく、大きく口を開いた。そして。
「そんな一般生徒と同じだと思ってもらっては困ります、先生。次の定期テストでは完膚なきまでに叩き潰してやるつもりですし、むしろ私が入院してたのはハンデだと思ってもらって結構なのよ、西村君?」
これっぽっちも思ってやしない嫌味な言葉が勝手に口から出てきて、真琴の心はぴしりと固まる。嘘、何で? 何言ってるの、私……?
教室の中はしんと静まり返ったが、それはあまり嫌な空気ではなかった。むしろ、こういうのは日常茶飯事だと言わんばかりに担任も「ライバル視もほどほどにしておけよ?」と軽くたしなめる程度だし、当の雄一に至っては。
「あ、あはは……。お手柔らかに、冴島さん……」
と、小さな声で遠慮がちに答えるのみであった。
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