第18話

「お、おはよう……」


 クラスメイト達の顔と名前は今生の記憶から大体思い出したものの、自分が皆からどのように思われているか全く自信がなかった。せめて、普通に口をきいてもらえるような感じでありますようにと祈りながら、口を開いたのだが。


「あ、冴島さん! もう学校に出てきてよろしいんですか?」

「事故に遭われたとお話を伺った時は、もうわたくし、心臓が止まるかと思いましたわ!」

「僕達もです。とにかく、ご家族ともども無事でよかった。でもまだお体に障るようなら、あまり無理はしないで下さい」


 ……何これ。真琴は一斉に自分の周りに集まってきたクラスメイト達の代わる代わるな言葉の猛攻撃に動揺し、さらには戦慄さえ覚えた。


 本当、何これ。私が学生の時とは空気や温度ってものが全然違う。こんなの、友達じゃない。こんなの、ただ顔色を窺っているだけじゃない。冴島コーポレーションという大きな看板越しに、私のご機嫌取りをしている。冴島真琴という人間を利用しているだけだ……。


「え、ええ。もうすっかり大丈夫ですから……」


 それでも何とか今生の記憶通りの反応を返して、自分の席へと向かおうとする真琴。それに当然のようについてくるエンに気が付いた女子生徒の一人が、「冴島さん?」と声をかけてきた。


「そちらの方はどなた? 新しいお付きの方にしては学ランを着ていらっしゃいますけど……」

「え? えっと彼は……」


 まずい、動揺しちゃったせいでうっかりしていたと焦る真琴だったが、校門の時と同じようにエンは懐からさっと閻魔帳を取り出して、クラスメイト全員に見えるように掲げながら言った。


「真琴の親戚で、今日からこの学校に転校してきた六道 閻です。どうぞシクヨロ~!」


 そしてトドメとばかりにウインクをかませば、女子生徒達からほわあっと甘いため息が漏れ、男子生徒達からは「将来、強力な商売敵になるかもな……」と火花が散る。やっぱり連れてくるんじゃなかったと頭を抱えながら真琴は自分の席に座る。しばらくして、エンもその隣の空いている席にちゃっかりと座ってきたので、真琴は小さな声で話しかけた。


「ちょっと、いつまでごまかし続けるつもり?」

「おいおい、そんな事言っていいのか? もうすぐ俺に感謝する事になると思うけど?」


 同じく小さな声でそう返してきたエンに首をかしげたところで、教室のスピーカーから予鈴のチャイムが鳴った。それと同時に担任が一人の男子生徒を伴って教室に入ってくるのが見えた。

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