第16話
「……おい、無理するなって。これまで通りの性格悪いお嬢様でいた方が身の為だぞ?」
冴島家から出た真琴は、三キロほど先の学校までお送りしますという専属の運転手の申し出をやんわりと断った上、今日はもう帰るようにと告げた。今生の記憶の中から、彼の奥さんが臨月で出産日が近い事を思い出したからだ。
「あの運転手まで泣いて喜んでたのはいいとして、あんまり前世の自分と重ねて行動するなよな。取り返しが付かなくなったらどうするんだよ?」
「それは仕方ないじゃない。どうしても思うところはあったんだから」
一人で行くのは危ないと心配する運転手を安心させる為、真琴は「最近仲良くなった学校の友達と一緒に行く約束をしているから」と嘘をつき、家から少し離れた電柱の影に隠れてからエンを呼び出した。まさかそんな狭苦しい場所に呼び出されるとは思っていなかったらしく、再三の忠告をするエンの頭には、電柱にぶつけてしまった際のたんこぶがしっかりと膨れ上がっていた。
「思うところって……その時点で、十六歳の女子高生にできる気遣いの域を超えてるんだっつうの」
自分で用意したのか、薄っぺらい学生カバンを振り回しながら、エンは隣で歩く真琴に言った。
「俺はみなみの事を気に入ってはいるけど、だからっていつまでも特別扱いはできないんだぞ? もし万が一、みなみが注意事項の三つ全部破るような事があったら、俺はキャンペーンの規定に基づいて、それ相応の事をしなくちゃいけないんだからな?」
「それ相応って……まさか地獄に堕とすとか?」
「そうそう。ただいま八大地獄巡りツアーを企画キャンペーン中……て、やめやめ! そんなのどんだけ予算と手間暇がかかると思ってんだよ!? 頼むから、絶対にやらせるなよ!?」
不安そうにあたふたと言ってくるエンは、今の見た目も相まって、本当にどこにでもいる普通の男子高校生みたいだ。それが何となくおかしくなって、真琴は思わずププッと小さく笑ってしまった。
いまだに注意事項の三つ目を思い出す事はできないが、きっと大丈夫だろう。今生に影響が出ない範囲で、本当にちょっとずつ今の性格を直していこう。そして、その上で堂々と茂之と雄一の幸せを見届けに行くんだ。真琴はそう心に誓いながら、学校への道を急いだ。
「……ところで、エン。呼び出しておいてなんだけど、いつまでついてくるの? さっきの運転手さんはうまくごまかせたんだし、もう仕事に戻ってもいいんじゃない?」
「いや? 地上の高校生ってのも何かおもしろそうだし、ちょっとした社会科見学って奴をさせてくれよ」
「はぁ!? ちょっと、そんなの無理に決まって」
「いいからいいから♪」
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