第12話

「……ちょうどいい機会だわ」


 ふんっと大きな息を一つ付いて、真琴はエンに向き直った。


「エン、確か言ってたわよね? 前世と転生先は全く違う存在なんだから、転生先の人生をガン無視して好き勝手ばかりするなって」

「おう、まあな」

「でも、この事故をきっかけにいろいろ反省して、いい子になったっていうのは構わないんじゃない!?」

「え~、そう来るかよぉ~……」


 全く、これっぽっちも想定していなかった真琴の発案に、エンは困ったように頭をぼりぼりと掻く。確かに昨今の人間の流行ではそういう展開もありと言えばありらしいのだが、輪廻転生株式会社が立ち上げた『死んでみたらワンチャンもらえるみたいなんで、ここは何の遠慮もなく転生させていただきます』キャンペーンは、それほど簡単ではないのだ。


 何せ、キャンペーンの内容全てが個人情報に繋がる。前世だろうが今生だろうが、果てには来世だろうが、キャンペーンに参加すらしていない外部には決して漏らしてはいけない。ゆえにプレゼンの時から慎重に慎重を重ねて、ようやく立ち上がった企画なのだ。


 それをまさか、こんな形で穴を開けようとする人間がいたなんて。しかも、自分が気に入っている人間の口から聞かされるだなんて思いもしなかった。無下にしたくはなかったものの、136代目の閻魔大王の立場からして言わなくてはならない事もあった。


「別に、そんな必要はないと思うぜ?」


 初めて聞いたエンのやや冷たい声に、真琴は思わず「え……」と言葉を詰まらせる。そんな彼女にうっと胸が痛んだが、エンはさらに言うしかなかった。


「みなみ、お前が転生した目的は何だったか思い出せよ? 前世の旦那と息子の幸せを見届ける為で、そこに今生の性格や家族は関係あんのかよ?」

「そ、それは……」

「突然、ご都合的な性格変換を試みたところで、前世と今生の記憶がさらにごちゃ混ぜになってパンクするだけだ。悪い事は言わないから、やめとけ。注意事項の三つ目に触れると厄介だろ?」


 な? と窓枠から近寄ってきて、エンは真琴の肩を二度三度と軽く叩く。それを受け入れながら、真琴はぎゅうっとベッドのシーツを強く握りしめた。


 エンの言う通りだ。注意事項の三つ目が何だったのかはまるで思い出せないけど、私が前世の記憶を持って転生したのは、茂之と雄一が幸せかどうか確かめる為。その為だけに、私は……!


「分かった……」


 少し時間を置いてから、真琴がぽつりと呟くように言った。


「でも、やっぱり気が引けると思うから、その都度エンが注意してくれる? 忙しくなければだけど……」

「それはもちろんいいぜ、そのつもりでこんな格好してるんだからな」


 そう言って、エンは己の学ラン姿を見せびらかすようにくるりと一回転して見せる。どうしてそんな格好をしているのかと真琴が尋ねてみれば、彼はしれっと「これならみなみの側にいても、彼氏か幼なじみですって強引に押し通す事ができるだろ?」などと言うものだから、とりあえずぺちんと一発デコピンしておいた。

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