第11話

「やっと、やっと真守まもるちゃんに心を開いてくれたのね。お姉ちゃんだもの、何だかんだ言ってもやっぱり弟の事はかわいいわよね……!」

「え?」

「ドライブに行くのも、後ろの席で真守ちゃんと並んで座るのも嫌だってあんなに駄々をこねてた上、事故に遭う寸前まで真守ちゃんと口ゲンカしてたっていうのに……ママ、本当に嬉しい。パパもきっと安心するわ」

「あ、あの、ちょっと……?」

「パパに真琴ちゃんの目が覚めたって伝えてくるわ。今、真守ちゃんの病室にいるから」


 涙がこぼれ落ちそうな目頭を順番に拭ってから、真琴の母はいそいそと病室から出ていく。そんな母親をぽかんとした表情で見送る真琴だったが、それと同時にいろいろと思い出した事があり、思わず天井を仰いだ。


「今生の私って、弟とメチャクチャ仲が悪い上、超絶的に口と性格も悪い捻くれお嬢様じゃない! こんなの遠慮したいんだけど……!」

「え~、そうか? 誰にも前世の事がバレずに済んでいいと思ったんだけどな?」


 突然窓の方から聞こえてきた声にびくっとしながらも、反射的にそちらへ振り返る真琴。その視界の先には、死魂水先案内所で会っていた頃よりもさらに若い……言うなれば真と同じ年頃の姿をしたエンが窓枠に寄りかかるようにして立っていた。ごていねいにも、学ランをその身にまとって。


「エ、エン!? どうして……」

「どうしてって、みなみが俺を呼んだんだろ? 空に向かって、エンってさ」


 もしかしてさっきの、天井を見ながら「遠慮したい」ってもらした独り言の事を言ってる……? あれはそんなつもりじゃなかったんだけどと言いかけた真琴だったが、すぐさまその考えを打ち消すと、ベッドの上から前のめりになるような体制で問いかけた。


「ちょっと、どうしてこんな面倒くさい感じの女の子に転生させたの!?」

「面倒くさいって……人聞き悪いな、仮にも自分の今生だろ?」


 心外とばかりにエンは肩をすくめながら、さらに話を続けた。


「言っとくけど、俺だって嫌がらせや悪ふざけで冴島真琴の人生を選んだ訳じゃないんだぜ? みなみの希望をほぼ100%応える為には、その子が一番適していたってだけの話で。性格の悪さはおまけっていうか、オプションだと思ってちょっと我慢してくれよ」

「とてもオプションだなんて言葉で済ませられないわよ。今思い出したけど、事故の直前に私、弟の真守君にトラウマレベルの暴言吐いちゃってるのよ!?」

「その暴言って奴も真守が物心ついた頃から日常茶飯事だった訳だし、それもありって事で受け入れれば」

「絶対に無理!」


 真琴は大きく首を横に振って、拒否した。


 とてもできるはずがない。西村みなみの時は一人っ子だったけど、年の離れた兄弟がどれほどかわいいものかは容易に想像が付く。ましてや、自分は前世で雄一に兄弟を作ってやる事もできずに死んでしまったのだ。それなのに、自分だけ弟ができた上、その子をこれからもいじめるだなんて……!

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