第7話

「……よし、あんたら希望欄に必要事項は書いたな? だったら最後にいくつか注意する事を言っておくから、よ~く聞いとけ。ああ、そこのじいさん。後で聞いてませんでしたは通じないんだから、うたた寝してないでしっかり起きてろよ?」


 それから数時間後。エンは一室にいた全員に何枚かの書類とペンを手渡し、その中に記載されている必要事項を全て記入させると、ごほんと一つ大きな咳ばらいをしてから話を始めた。


「まず一つ目。さっきも説明したけど、成仏っていうのは前世の記憶をきれいさっぱり洗い流して、魂をまっさらにする事だ。その状態で転生したら、ほぼ100%前世を思い出す事はできない。逆に成仏の手順を飛ばして転生した場合、多少の個人差はあれど、前世の記憶は残る。それもしっかり頭に叩き込んだ上で、再確認してくれよ?」


 これを聞いて、みなみは改めて自分の書類に目を通した。うん、間違いはない。自分の希望欄には『転生先は人間の女性を希望します』『前世の記憶を残します』ときっちり書き込んである。そして、【その他に何かご希望はありますか?】という欄には、こう書き加えた。『転生先の出生地は前世の家族が住んでいる所に近い地域で。あとできる事なら、ある程度息子が大きくなった頃合いを見計らっての転生をお願いします』と。


 その頃になれば、さすがに茂之も他の女性と巡り合って再婚しているだろうし、雄一もその女性を母親と慕って幸せに暮らしているだろう。正直、その役目は自分でありたかったが、二人の新たな門出を見届ける事ができれば何の文句もない。潔く、身を引く事もできるというものだ。


「二つ目。これは成仏の手順を飛ばして転生する奴に言う事だけど、転生先はまぎれもなく今生こんじょうで生きている命であり、前世のあんたらとは全く違う存在なんだ。前世と今生、二人分の記憶が混ざって混乱するかもしれねえけど、転生先の人生をガン無視して好き勝手ばかりするんじゃねえぞ?」


 ああ、雄一。どれだけ大きくなっただろう。茂之に似て、スポーツ万能な子になっただろうか。茂之も、どんなふうに年を取っただろう。さすがに白髪だらけにはなっていないだろうけど……。


「最後に三つ目。これが一番重要だから、しっかり聞いとけよ。言っとくけど、前世から生まれ変わったって事は個人情報に関わる超トップシークレットだ。だから万一、今生の誰かにバレるような事があったら……」


 茂之、雄一。早く転生して、会いに行きたい。二人が幸せに生きている姿をひと目、この目に焼き付けた……。


「……けっ! 知るかよ、そんな事!! 転生したら、俺はやりたいようにやらせてもらうぜ!!」


 愛する二人に思いを馳せていて、エンの話が耳に届かなくなった頃、みなみのすぐ隣でそんな怒鳴り声が突然聞こえてきた。びくっと肩を震わせた後、反射的にそちらを見てみれば、そこには二十歳前後と思われる若い男が忌々しげに書類を握り潰しながら立っていた。

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