第6話

まず、ここ百年くらいのあの世というものは、この世でだいぶ根付いてきたイメージとはずいぶん打って変わった存在になってきているという。


 そりゃあ、この世の全ての命あるものが死を迎えた際、その魂を迎える世界であるという事自体は全く変わっていないが、この世の思想や流行などが時代によって大きく変わるのと同じように、あの世もそれらに都度合わせて変化を繰り返してきたという。そして、ここ百年で今の形に落ち着き始めたのだとエンは語る。


 では、どのような形に落ち着いたのかと言えば。


「うん。ひと言で言うなら、命と魂のリサイクルって感じかな?」


 この世に文明が芽生え、やがてそれらが栄えて近代社会に繋がり出した頃、人間の数が爆発的に増えるという現象が起こった。あの世はこれを一種の繁忙期と捉えて、かなりてんやわんやとなったらしい。人間の生まれる数が増えるという事は、それに伴う形でやがては死んでいく数やその理由も増えていくという事だからだ。


 みなみ達がいるこの死魂水先案内所も、その頃に合わせて急いで建てられたものであるらしいが、それでもやはり追い付けないほど忙しかったという。何せ、死んであの世にやってきた魂を事細かに管理した後、微塵の抜かりがないほどに成仏の手続きを執り行ってから完全消滅までを見届ける。そしてまた、新たに生まれてきた魂をこの世へときっちり送り出すのだ。これらにかかる費用や時間というものは本当に半端ではなく、てっぺん越えの残業や休日出勤などはもはや当たり前。現世で言うブラック企業と大差なかった。


 そんな中、閻魔大王直系の子孫であり、136代目の任に就いたエンが輪廻転生株式会社に就職したのとほぼ同じタイミングで、ある一つの案を提示してみた。それは死んだ者の命や魂を消滅させるのではなく、また新たに生まれづる魂として転生させてみてはどうかというものだった。


「これなら魂が新しく生まれるのを待つ事も、死んだ魂が消えていくのを見届ける手間もコストもなくなる。会社名の通り、ずっと輪廻を繰り返すんだから、この世の魂が一定数以下に減る事もない。そもそも成仏っていうのは、前世の記憶をきれいさっぱり洗い流す行為なんだから、元から消滅させる必要もなかった訳だしな。どうよ? 俺、天才だろ?」


 ふふんと偉そうに鼻を鳴らしながら、ふんぞり返るエン。確かに彼の言う通りなら、自分達が消える事はなくなるのだと皆はほっと胸を撫で下ろした。


 だが。


「ちょっと、待ってくれる?」


 再び手を挙げて、みなみがエンに問いかけた。


「それってつまり、前世の記憶を保ったまま、また人間に生まれ変わる事もできるって話……?」

「そういう事になるな」


 エンはさらりと答えた。


「最近この世じゃ、そういうの流行ってるんだろ? 誰かに殺されたとか処刑なんかで死んだ人間がタイムリープな転生かまして、復讐を誓いつつ自分の人生やり直すとか、RPGみたいな異世界の登場人物になるとか、中年のおっさんが乙女ゲームの悪役令嬢に……なんておもしろ過ぎる展開まであるらしいじゃねえか。そういうのを参考にして、プレゼンした俺の案がいざ通った時には、自分の才能が恐ろしかったってもんだぜ」


 いやいやいやいや……、とその場にいる誰もが一斉に首を横に振った。


 確かに「もっとああすればよかった」「もっと違う人生を送ってみたかった」とは大なり小なり思ってはいたものの、さすがにそこまでの大がかりな転生は望んでいない。復讐する為のやり直し人生なんてドロドロしてそうで怖いし、レベル1の勇者になってモンスター退治をしたい訳でもない。ましてや前世の頃と全くかけ離れた存在に転生するなど、そんな身に余りすぎる来世はまっぴらごめんだ!


「ああ。もちろん、ある程度の転生希望はできる限り相談に乗るぜ? こっちも仕事だから、その辺の事はきっちりと」

「「「「ぜひ、ごく普通の転生をお願いします‼」」」」


 エンが言い切る前に、皆が口を揃えてきっぱりと言い放つ。今度はエンの方が呆然とする番になった。

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