第3話

……のだが!


「パンパカパ~ン! パンパンパン、パンパカパ~ン! どうも皆さん。この度はご永眠、おっめでとうございま~す♪」


 次にみなみがその意識を浮上させて両目を開けた時、目の前に広がっていたのは荘厳な教会を思わせるような、とてつもなく広くて大きな間取りの一室だった。


 壁も天井もまぶしいくらいに真っ白で、足元の床に至っては自分の顔が映り込むくらいピカピカに磨き込まれている。そこで初めて、みなみは自分の今の格好が病室で死んだ時の入院着である事に気付いた。


 そうだ、そうだった。私は死んだんだった。夫と、生まれたばかりの息子を残して。覚悟はできていたものの、まだまだやりたい事がいっぱいあったのに死んでしまったんだった。


 そう思いながら、みなみはあたりを見渡す。彼女の周囲には似たような格好をした老人達がいれば、自分よりさらに年下かと思われるような若者や子供と、老若男女問わずとした人間達がごまんとひしめいていた。


 ここはいったいどこだろうとか、自分やこの人達はどうしてここにいるんだろうとか、そんな疑問は先に聞こえてきた声のおかげで吹っ飛んだ。ひどく明るくはつらつとした声に惹かれるように、みなみを始めとしたこの場にいる全員がそちらの方へと顔を向けてみれば、その正面にでんと鎮座している大きな玉座のような椅子に、一人の男が満面の笑みを浮かべて座っているのが見えた。


 見た目だけなら、みなみとさほど年が変わらないように見えるが、ただ者ではないだろうという事はひしひしと伝わってきた。その最たる理由は、やはり彼の格好だ。古代ギリシャを思わせるような亜麻布の生地に派手な装飾や刺繍を飾らせたキトン服の上に、足元までありそうな長いマントを羽織っている。その頭には金色の王冠まで被っているのだから、この荘厳な場所と先の言葉からいってもただ者であるはずがないと簡単に想像できた。


「あのぅ~……ここはいったいどこですかね?」


 だが、あまりにもあたりがまぶしくてよく見えていないのか、みなみのすぐ近くにいた老場が不思議そうに尋ねてくる。その質問に男は一瞬きょとんとしたものの、すぐにまた笑みを浮かべ直して「そうだよね。急にこんな所に連れてこられて、皆さんびっくりしてるよね!」と答えてきた。


「じゃあ、ものすごく分かりやすく説明するな? ここは、あの世とこの世の間にある三途の川のほとりに建てられた死魂シコン水先案内所で、皆さんは近年五十年かそこらの間で永眠された人間達! それで俺は~……何と恐れ多くも、136代目の閻魔大王えんまだいおう様って訳! 気軽にエンって呼んでほしいって事で、どうぞシクヨロ~!」


 あはっと軽く笑いながら、敬礼のようなポーズを取るその男に、みなみはたくさんの人達に紛れる中、思わず「は……?」と声を出さずにはいられなかった。

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