第116話
昨日の放課後。2年A組の教室を出ようとした僕は、「おい、美化委員」と背後から呼び止められた。
僕をそんな呼び方をするのは、このクラスで……いや、この世でたった一人しかいない。面倒に思いながらも振り返ってみれば、そこにはやっぱり島崎が立っていた。
「……何だよ?」
太々しく、腕組みをしながら仁王立ちしていた島崎を見て、僕もつっけんどんに返す。この間のケンカの続きでもしたいのか? それとも、また他に何かしらのいちゃもんを付けに来たのか? 正直かなり面倒臭く思ったが、ここで無視する方がもっと面倒になると考えた僕は、仕方なく島崎の方を振り返った。
島崎は腕組みをしながら、2年A組の教室の中に僕達以外の生徒がいなくなるのを待っていた。皆も何となく空気を読んだのか、そそくさと教室を出て行ってしまい、呼び止められて五分と経たないうちに僕と島崎の二人だけになった。
僕はわざとらしく、大きなため息をついてやった。僕と島崎の間で話題になる事といえば、木下の事くらいしかない。その木下はさっき、学級日誌を持って職員室へと行ってしまった。
本当に用があるのは、僕じゃないだろう。そう思った僕は、まだこっちをじいっとにらみ続けている島崎に言ってやった。
「あのさ、いい加減にしろよな。お前が勘ぐってるような事は、一つもないんだから」
「……」
「僕に突っかかる暇があるなら、他にもっと頑張れる事あるだろう?」
「……」
島崎は、まだ黙っている。何なんだよ、いったい。話を切り出さないんだったら、僕の方から言う事だって何もない。これ以上は付き合ってられないと、僕が再び背中を向けた時だった。
「この後、木下から呼ばれてる」
あまりにも唐突に、島崎がそう言った。え、と思いながら肩ごしに振り返ってみれば、そこには今まで見た事ないほどの島崎の真剣な顔があった。
「俺、夏休みに木下に告白した。断っておくが、ガチでだ」
僕がその事を知っているとは露ほどにも思っていない島崎が、勝手に話を進めてきた。僕は何も言わずに、ただ肩越しに島崎を見つめていた。
「今から、木下が返事してくれるって言ってた。真剣に考えた末での答えだってよ」
「へえ、それで? 何でそれを僕に?」
「お前には、絶対に負けたくねえからだ」
ふんっと、島崎が荒い息を一つ吐く。そして、失礼にも僕に向かってびしっと指を差しながら言ってきた。
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