第88話
それから程なく、父と母が再婚を果たした事で姉の名字が僕のものと同じになった。お互い二度目という事もあって、
新たに四人家族となった僕達の記念写真は、とてもいい具合に撮れたようだった。椅子に座っている母を父と僕、そして姉が取り囲むようにして立っているという実にシンプルな構図だったのだが、撮影を担当した若いカメラマンの「これぞまさしく奇跡の一枚ですので!」といった熱意ある要望に父と母が根負けし、一時期の間だけという条件の元、写真館のウインドウに飾られる事となった。
あくまで大仰にするつもりのなかった父と母は、家族写真の事を極力人様に話さないようにしていたようだったが、それはムダな努力に終わった。写真館のウインドウに飾られてから数日と経たないうちに、親戚中はもちろん、職場の人や長年会っていなかったような友人・知人に至るまで知れ渡っていたのだから。
「ねえ、見て見て! これが、私の新しい家族! すごいでしょ? いい感じでしょ~?」
犯人は、言わずもがな姉だった。美喜さんを始めとする何人かのクラスメイト達をわざわざ写真館のウインドウの前まで連れ出したり、自分の小遣いをはたいて別口で注文をし、手のひらサイズのブロマイドカードを作ってもらったりして、とにかく次から次へと僕達家族を自慢して回った。
さすがに恥ずかしくなったのか、母がずいぶんと頬を赤くしながら、「みっともないから、やめてちょうだい」と姉をたしなめているところを見た事がある。だが姉は、僕が側で見ていた事に気が付いていたようで、僕の手をそっと優しく取りながら何度も何度も首を横に振っていた。
「何で? 自慢の家族を皆に話して、何か問題あるの? 私、話したいの。皆に知ってもらいたくってたまらないの」
それを聞いて、僕は嬉しかった。姉は僕に意地悪なんか一つもしてこないどころか、まるで始めから本物の弟であったかのように接してくれている。僕は、姉の自慢の家族の一人なんだ。そう思うと子供心に誇らしくて、姉と同じようにたまらなかった。
姉の名字が変わった事を、1年A組のクラスメイト達は一瞬戸惑ったようだが、誰にでも分け隔てなく接する事のできる姉の優しい性格にまで変化が及ぶはずもなかったので、以前と変わらない日々が戻るのに時間はかからなかった。父や母からのしぶしぶといった許可も出た事で、ブロマイドカードを片手にますます家族自慢に拍車がかかるようになった姉の姿をあの人はよく見かけていたそうだし、特に何か言うでもなく見守っていたという。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます