第57話
来客用の駐車場は校門の横のあたりにあるので、まずは父と二人で校門を目指した。すると、その周辺を古い竹ぼうきで掃除しているあの人の姿が見えてきて、僕は思わず「げっ……」とカエルのような潰れた声を出してしまった。声を出さなければもしかしたら気付かれなかったかもしれないが、あの人はふうっと大きく息を吐き出した後でこっちを振り返ってしまい、「やあ」と声をかけてきた。
「何だか体育館の方が騒がしいと思ってたら、君が騒動に巻き込まれたとか聞いたよ? 大丈夫だったか?」
「あ……」
竹ぼうきを持ったまま近付いてくるあの人に、僕はうまく返事ができなくて一歩だけ後ずさる。それを知ってか知らずか、父が代わりに「お騒がせしました」とまた頭を下げてくれた。
「それと先日は、娘の為にありがとうございました。吉岡先生」
「え……いやいや、そんな当たり前ですよ。娘さんには私の方がお世話になったんで」
そう言って、あの人もぺこりと頭を下げる。僕はそんなあの人の姿よりも、父もあの人を吉岡先生と呼ぶのかと思ってしまった。
「それじゃ、失礼します」
保坂先生の時と同様、あんまり話が長引いてもまずいと思った僕は、先に校門から右に折れた来客用の駐車場へと向かった。だけど父は今度はすぐに追いかけてこなくて、僕は父の車の前で数分ほど待つ羽目になってしまった。
「……あの人と姉さん、そんなに仲良かったの?」
父の車に乗っての帰り道、僕はふとそんな事を尋ねてみた。すると父は少し苦笑いを浮かべながら、それでもあっさりと答えてくれた。
「あの子の担任だった人なんだ」
「え……教師だったんだ?」
「もう定年は過ぎてるけどな、だから今は嘱託の用務員なんだろう?」
ちょっと驚いたものの、それ以上に大きく納得している自分がいた。でなければ、あんなに木下と姉を見比べて、そっくりだと言えるはずが……。
僕がそんな事を思っていた時だった。いくら通学路でここを通らなければ家に帰れないからといって、父の車だから大丈夫だと思い込んでいたからといって、あの交差点にいつの間にか差しかかっていた事に僕は全く気付いていなかった。
「と、父さんっ! どこか迂回して帰ろう」
「無理だ、後ろから車が来てる」
「でも、このままじゃそこは……あっ!」
せめて運転している父からは見えづらくしてやろうと、僕は痛むわき腹を堪えて助手席側のドア窓に貼り付くような感じで外を見る。すると、姉がいなくなってしまったあの電柱の所に二つの人影があるのが見えたんだ。
二つの人影は、お互いを思いきりにらみ合っていた。一触即発なその雰囲気に普段だったら止めに入るんだけど、父の車はどんどん横断歩道から、電柱から、そしてあの交差点から過ぎ去っていく。せめて顔が見えないだろうかとさらに窓ガラスに頬を寄せたとたん、そこで見えたのはもっと衝撃的な
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