第52話
問題が発生したのは、その五時間目の体育の授業の時だった。
うちの学校の体育は男女別れる上に、二クラス合同で執り行われるので、週やカリキュラムに応じてさほど広くないグラウンドか体育館かの移動を強いられる。夏の時期はもちろん水泳もあるからプールに入れるのは最高に気持ちいいけれど、それだって男女別になるのだから、エアコンなどが利くはずもないグラウンドか体育館の運動なんて最悪としか言いようがない。
初夏に差しかかったと言っても不都合ではない今の時期は、朝だと心地よい温度しかない太陽の光が、午後を回ればじんわりと汗ばむほどの陽気をはらむ事なんて珍しい話じゃない。少し多めになってしまった昼食を食べ終え、体育着に着替え終えた僕の背中も例外なくうっすらと汗が滲み始めていた。
2年B組の男子と合同で行う今日の体育のカリキュラムは、バレーボールだった。それぞれのクラスが六人ずつのグループをいくつか作り、十分ずつ交代でちょっとしたゲームを行うというものだったが、自軍のコートの中でボールに三回まで
四回目に目の前に来たボールを浮き上がらせたところで、体育担当の教師が首にぶら下げていたホイッスルを高々と鳴らす。助かったと、汗だくになった額を拭いながら思った。
「はい交代、次のグループ入って」
教師の言葉に従って、コートの外で待っていた次のグループと入れ替わる。その際、ネット越しにB組のグループが「よぉし、やってやるぜぇ!」とムダに高いテンションを保ちながら声を張り上げていたのが見えた。
あんなじりじりと日に照らされて暑く蒸し上がったコートの中でよくもまあはしゃげるものだと呆れながら、わずかに影ができていたコートの端の方に腰を下ろした時だった。
「おい、美化委員」
腰を下ろしたばかりの僕の真上から、ずいぶんと不機嫌な声が降ってきた。そいつが自分の体で日の光を遮ってくれてたおかげで、僕は特に目を細める必要もなく顔を上に向ける事ができたのだが、そこにいたのが島崎だと分かるとげんなりとした気分を隠す事なんかできなかった。
いったい、何だっていうんだ。確かにさっきまで僕はお前と同じグループでコートに立っていたけど、特にバカにされたりヘマを責められるような事は何一つしていないはずだ。むしろお前の方がふざけたフォームでアタックしようとして、思いっきり空振りしていたじゃないか。
そもそも、島崎から振ってくる話題は相変わらずろくなものがないのだから、これでもしつまらないいちゃもんでも付けてこようものなら、さっきのフォームの事をバカにし返してやろうと思いながら、僕が「何だよ」と返事をすれば。
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