第27話
『……お姉ちゃんは、洋一君のお嫁さんになるの?』
洋一さんと出会って、少し経った頃だっただろうか。幼かった僕は、姉にそう尋ねてみた事があった。
いつも通り姉の部屋に押しかけてベッドの上でゴロゴロと寝転がっていた時、ふいにそう思い立った上、何も考えずに口にした言葉だ。何の脈絡も前ぶりもなく、突然そんなませた事を弟の口から聞かされて相当驚いたに違いない姉は、勉強机に向かっていた体を思いきり強くびくつかせた。
『ええっ!?』
次いで振り返ったその顔は、りんごのように真っ赤だった。一瞬、姉が病気になってしまったのではないかと心配になった僕は急いで寝転がっていた体を起こしたが、姉の忙しそうにあたりを見回す両目の動きに、何となくほっとした。
『ど、どうしてそんなふうに思うの!?』
一度勉強机の椅子から離れた姉は、そう言いながら僕の方へと近付いてくる。先にも言ったが、ふいに思い立った上に何も考えずに言った事だ。だが、「何となく」という曖昧な返事では姉は納得しないし、おそらく話してくれないだろうと思った僕は、幼いなりに必死に考え、そしてある事を思い出した。
『洋一君も、お姉ちゃんが大事だって言ってたから』
『え?』
『この間ね、洋一君に聞いてみたんだ。お姉ちゃんの事、大事なのって』
『や、やだ……』
僕をまっすぐ見ていた姉が、ちょっとだけ視線を外して熱くなってしまったらしい頬を両手で隠す。それでも指の間から見えているそこは赤いままで、僕はそんな姉を心底かわいいと思った。
『そ、それで……?』
そうやって少し時間が経った頃、姉が言った。
『洋一君、お姉ちゃんの事、大事って言ってくれてたの……?』
『うん!』
それは事実だったので、僕は力いっぱい頷いた。
『高校を卒業したら、すぐにお嫁さんにしたいくらい大事だって言ってたよ! そうなったら、僕のお兄ちゃんにもなれるって言ってた!』
『も、もう、洋一君ったら……』
いやいやと首を横に振ってるくせに、姉は嬉しそうに、そしてとても幸せそうに口元を緩めていた。僕はそんな姉の笑顔を見るのが大好きだったので、思わずつられて一緒に笑った。
『お姉ちゃん、楽しみが増えたね』
僕は言った。
『高校を卒業したら、美喜ちゃんとお洋服のお店を開くんでしょ? そしたら僕、洋一君と一緒にお店のお手伝いする。皆で仲良くお店屋さんやろうね?』
『……うん、そうだね』
僕の言葉にはっと我に返ったらしい姉は、頬を隠していた両手を離して、それを僕の両肩に置く。そして、また嬉しそうに幸せそうに笑った。
『楽しみだよね。そうなったらお姉ちゃん、本当に幸せだなあ』
姉は確かにそう言ってくれたし、僕だって信じて疑っていなかった。何の間違いもなく、そんな未来がやってくるものだと。
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